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2019年12月27日21:04

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(読書)『古典力』(斎藤孝著:岩波新書)

この本における「古典」とは、高等学校で習う古文、漢文のことではなく、歴史的名著全般のことである。もちろんその中には高校の古文、漢文の授業で出会う、『源氏物語』、『古事記』、『万葉集』、『徒然草』、『枕草子』、『おくのほそ道』、『平家物語』なども含まれる。さらに、『カラマーゾフの兄弟』、『罪と罰』、『変身』、『赤と黒』、『嵐が丘』のような海外の文芸作品も含まれている。このあたりは著者の斎藤孝氏が大学(明治大学)の文学部の先生だからであろうか。

また、思想書も含まれている。例えば『方法序説』、『社会契約論』、『共産党宣言』、『精神分析入門』、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、『存在と時間』などである。そのほか、フーコーの『監獄の誕生』、『悲しき熱帯』なども含まれており、著者の嗜好が反映されていて興味深い。

一方、『富国論』、『資本論』、『雇用、利子、および貨幣の一般理論』など経済学関連の古典的名著はほとんど取り上げられていない。関連するもので経営学の『マネジメント』(ドラッカー)あたりがあるくらいである。また、世界文学の文芸作品はけっこう多数紹介されているものの、日本近代文学の古典的名作は特にチョイスされていないようだ。三島由紀夫の『金閣寺』などが関連書籍として登場してくるくらいである。

このように、選択の指向性にはやや偏りがあるが、しかし著者の選択が「偏りをなくそう」と意識しすぎると、かえってあたりさわりのない無個性的なつまらないものになってしまったかもしれない。だからこの本に示された選択の指向性は、これでいいと思う。あとは、読者がこれらの中から興味が持てるものを選び出して読んでみればいいのだと思う。ちなみに私が興味を持ったのは、『世界でもっとも美しい10の科学実験』である。

なお、本書のはじめのほうで、著者は「価値観の多様性を受け入れる知性の力が、他者に対する寛容さとなる」、「多様な価値観を理解し受容するには知性が求められる。数々の古典を自分のものとしていくことで、この知性が鍛えられる」と述べている(P4)。グローバルに情報が行きかう時代を生きる私たちにとって古典を読むモティベーションになるといえよう。

上記の斎藤孝氏の見解にさらに付け加えるものとして、生命誌研究家の中村桂子さんの発言を紹介しておきたい。中村さんは、時代が目まぐるしく変化すればするほど、変わっていいものと変わってはいけないものとを識別する知性が必要になると言っている。そんな知性のよりどころも、おそらく古典にあると思う。
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