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2019年10月19日12:07

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(読書)『国運の分岐点』(デービッド・アトキンソン著:講談社+α新書)

『国運の分岐点』(デービッド・アトキンソン著:講談社+α新書)という本を読んでみた。著者のデービッド・アトキンソン氏が主張しているポイントの主なものは以下のとおりである。

(1)日本は先進国の中できわだって労働生産性が低い。日本には勤勉で技能の優れた労働者がたくさん働いているのに、このように労働生産性が低いことは異常である。その根本原因は、日本の企業の平均的規模が著しく小さいことにある。企業の規模と労働生産性との因果関係は明確に確認されており、その国の企業の平均的規模が大きくなればなるほど労働生産性は高くなる。

(2)日本にこのように中小企業が多くなったのは、日本がOECDに加盟することを決めたことと関係がある。OECDに加盟すると、その国は資本を自由化することが加盟国のノルマとして課される。すると、「外資」というものにアレルギーを持っている日本人は、資本の自由化に伴って大量の中小企業が倒産するのではないかという懸念を持つに至った。

そこで、日本国政府はOECD加盟(1964年)に先立って、中小企業基本法を制定した(1963年)。これは、規模の小さな事業体に対して税制の優遇措置等をもたらすもので、この法律があるおかげで、中小企業の経営者は、「自分の会社を大きくしよう」という動機をもたなくなり、中小企業は中小企業のまま存続することになった。

(3)中小企業の存続は、日本の人口、それも労働人口が増えているときは、雇用の受け皿として重要な役割を果たしてきたが、現在は極端な「労働人口減少時代」である。もはや中小企業基本法の役割は完全に終わり、現在は悪法でしかない。

(4)では、中小企業の合併や経営統合を促進するにはどうするか。著者のアトキンソン氏は、最低賃金を毎年5%程度上昇させるべきだとしている。

(5)日本の企業はほとんど社員教育をしないという点にも触れている。欧米の企業などは、労働者への必要性が薄くなると無慈悲にクビ切りをする体質があるかのようなイメージを抱きやすいが、社員教育に関しては、むしろ外資系の企業のほうがしっかりしているのだという。雇っている労働者の有用性が低くなると、社員教育を徹底的にやって、新しい「使い道」を開拓する。それでも労働者が改質しなければ、そこで首切りをする。日本の場合は、首切りにかんしては「慈悲深い」のかもしれないが、その代わりにいわゆる「窓際族」というのが発生するらしい。


上記のアトキンソン氏の主張は大変啓発に富むものであり、本書を読んで大いに参考になったが、(4)のポイントにはやや問題があるかもしれない。中小企業の経営者の立場に立ってみると、まず「収益力が薄っぺらなのに、賃金ばかり高くすることはできない」と言いたくなるだろう。

アトキンソン氏は、「最低賃金を上昇させると、中小企業経営者に、合併や経営統合へのインセンティブが生じる」と主張している。ここはやや難しいポイントだろう。化学では、化学反応を促進するために「触媒」が用いられることがある。合併や経営統合という「化学反応」を促進するためには、「生産性を上げて収益力を上げたい」というインセンティブだけでは、中小企業経営者を動かすインセンティブとして間接的すぎると思う。例えば合併する企業同士の仲立ちをする経営コンサルタントが活躍しやすい環境整備など、「触媒」の機能を強化する施策が要るのではないだろうか。

(5)の社員教育、再教育の指摘はとても興味深いが、たとえば中小企業同士が合併して中堅企業程度の大きさになったとする。元の「素材」たる中小企業には社員教育の伝統もノウハウもなかったものとすると、そういう中小企業が合併してできた中堅企業には、社員教育の伝統やノウハウはあるのだろうかという疑問が湧く。

【目次】

第1章 「低成長のワナ」からいかにして抜け出すか
第2章 日本経済の最大の問題は中小企業
第3章 この国をおかしくした1964年問題
第4章 崩壊しはじめた1964年体制
第5章 人口減少・高齢化で「国益」が変わった!
第6章 国益と中小企業経営者の利益
第7章 中小企業 護送船団方式の終焉
第8章 中国の属国になるという最悪の未来と再生への道

【関連項目】

https://toyokeizai.net/articles/-/309446
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