音楽評論家に池田卓夫という人がいるようだ。その人が自身のブログに『「生きている音楽」に生きる正戸里佳』というタイトルの文章を掲載している。正戸里佳という人はヴァイオリニストである。以下の文章は、演奏会を控えている正戸里佳さんに池田さんがインタビューを試み、その内容をブログの文章に構成したものである。３つほど共感したパラグラフがあるので、抜粋して紹介しよう。
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https://www.iketakuhonpo.com/
「生きている音楽」に生きる正戸里佳
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「世の中全体、演奏の傾向までデジタルになり過ぎていて、より精密に、綺麗に弾くことを求められ、すべてが比較の対象です。実際は『こういう風に弾かなければならない』という正解など存在せず、演奏する側と聴く側との間に１回ごとの『生きている音楽』が成立するので、あれこれ後講釈はできても、本当の比較はできません。ちょっとした部分での冒険、その瞬間に生まれた表現こそ生きた音楽であり、背後には自然や人間が必ず存在します」
「どんなに技術や社会が進歩しても、本質は変わりません。古典の解釈者として新しい試みに取り組む必要はありますが、クラシック音楽のメッセージの基本は『変わらないこと』です。現代の時間感覚がどうであろうと、地球の自転速度は変わらないのと同じです」
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「最近のヴァイオリン�犇罰Ν瓩任魯謄鵐櫃�どんどん上がり、表現の吟味がなされないまま、機械的なフレージングやスフォルツァンドが頻出します。ヴァイオリニストやヴァイオリン教師が満足しても、弱音の幅広いニュアンスは犠牲になるし、共演するピアニストや日ごとに音響が異なる演奏会場に配慮する感性などは、これでは磨かれてはいきません。コンクールの弊害も大きいと思います。芸術の継承に責任を持ち、アーティストどうしがしっかりと人間的なコミュニケーションをとり、お客様とも一体に呼吸して初めて、音楽は生きるのです。千差万別の可能性を前提にしなければ、現代の人々に古典を聴いていただく意味はありません。作曲家が今も生きていたら、世界の演奏家が瞬間瞬間に生み出すアイデア、新鮮な響きに接するたび、大喜びしてくださるはずです」
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世の中全体、演奏の傾向までデジタルになり過ぎていることに起因して、音楽芸術を享受する側（聴衆）の価値観が単純に一元化してしまいやすいということはいえるだろう。このため、例えば、「演奏は精密であれば精密であるほど良い」、「演奏は綺麗であれば綺麗であるほど良い」そういう価値観ばかりが幅を利かせてしまうということが起こるのではないだろうか。
だが、ヴァイオリニスト正戸里佳さんは、この傾向にＮＯを突き付けている。演奏の場は様々でありうる。その演奏会の演奏者は演奏会ごとに違うし、その演奏会に集まった聴衆も、その演奏会ごとに違う。そして演奏会の構成要素は、その演奏会の演奏者がその聴衆に何を伝えたいかが無視できない大きさを持っている。その演奏会の演奏者がその演奏会に参集した聴衆に何かを伝えること、これはすぐれて人間的な営みであると言えよう。
あと、３番目のパラグラフで、「コンクールの弊害も大きい」という発言にも注目したい。ちょっと前であるが、私の近所のホールで、調雅子という若いヴァイオリニストが演奏会をしていた。入場料が比較的安かったので、出かけて行ったが、演奏の合間に入れるトークで、「これまで何度かコンクールにチャレンジしてきたが、１位をとることができなかった。そんな結果が出るたびに、『自分はなぜ勝てなかったのかな…』と反省することしきりだった」というようなことを言っていた。
私は、調雅子さんは、「１位をとりたい」ということばかりに執着しているから、「お客さんと対話する」、「お客さんに伝える」という演奏会の大事な側面が置き去りにされてきたのではないだろうか。そしてそのことが、案外１位を取れない原因になっていたかもしれないと推察する。
【関連項目】
（音楽）調雅子ヴァイオリンリサイタル
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1959193103&owner_id=3879221
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