mixiユーザー(id:37214)

2020年02月26日10:50

262 view

笹生那実「薔薇はシュラバで生まれる」を読む

1973年に高校三年生で「別冊マーガレット」でデビューした後、
短大を卒業した1976年から本格的にフリーアシスタントを始め、
1979年には自分の作品の方が忙しくなってアシスト業から離れるようになり、
その後、職業漫画家としては引退したものの、同人活動を続けていたという笹生那実が、
32年ぶりに描き下ろした「70年代少女マンガアシスタント奮闘記」である。

中学三年生で初めて訪れたシュラバは、美内すずえのカンヅメ旅館。
このときは、ネームを見てもらっていた小長井編集長(!)の紹介で、見学のみ。
初めて臨時アシスタントに入ったのは、デビューしたての高校三年生のとき、
この時、美内すずえが描いていたのが別マ「みどりの炎」と週マの「人形の墓」。

次は、同年齢ということもあって友人となったくらもちふさこのアシに入る。
この時描いていたのが、別マの「蘭丸団」シリーズ。
三原順がカンヅメ旅館から電話をくれてかけつけたのは、
花とゆめ連載の「はみだしっ子」シリーズの「そして門の鍵」。

夢野一子から引き継いだ樹村みのりのアシをしていたとき、
「40-0」を描いていた現場で勇気づけられ、再デビューにつながったという。
山岸涼子のアシスタントに入ったときには、
かの問題作「天人唐草」の制作現場にも立ち会っていたらしい。

私の(妹が買っていた)少女漫画誌遍歴が「別マ→LaLa→プチフラワー」で、
(「週マ→花とゆめ」については妹の友達から回ってきたので、)
この本で紹介されていた作品は、(立ち読みも含め)ほぼリアルタイムで読んでいた。

なので、ここで描かれていた「シュラバ」は、
サブタイトルの「70年代少女漫画アシスタント奮戦記」ということにとどまらず、
当時、多感な中学生から高校生だった私が心震わせつつ読んでいた少女漫画の数々が
どんな場所でどんな風に作られてきたかを教えてくれる個人的にも嬉しい証言なのだ。
(たぶん、少女コミックから入った人とは、少し温度差があると思う。)

というごく私的な舞い上がりはおくとして、この本では様々な貴重な証言や秘話がある。
くらもちふさこの「蘭丸団」の最終作、主人公の倫子が歌う印象的な場面で、
権利関係がクリアなら、ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」にしたかったこと。
自室にこもってネームづくりをしていた美内すずえがようやくアシたちの前に現れると、
二通りのネームが出来上がっていて、しかもどちらも面白かったこと、

そんな小ネタ以外にも圧巻だったのが、鈴木光明主宰の三日月会の紹介だ。
「すごい人たちの集まりでした」と名前が挙げられたのが、
市川ジュン、和田慎二、原ちえこ、名香智子、はざま邦、はやせ淳、柴田昌弘、
長岡良子、浅川まゆみ、夢野一子、槇村さとる、あさぎり夕、くらもちふさこ
といった面々。それぞれ似顔絵付きで紹介される。

編集者・小長井信昌とマンガ家・鈴木光明のタッグは、別マから白泉社という流れの中、
「24年組」とは別の形で少女漫画を革新していった(と私は確信している)のだが、
当時、三日月会で研鑽していた方々が、
必ずしも、「別マ―花とゆめ」の系統からデビューした人ばかりではないのも面白い。

また、そもそも、いつから誰が「修羅場」と言い始めたかについての考察もある。
1971年ごろから美内すずえ、和田慎二の周辺で見聞きするようになり、
1976〜7年ごろには、アシスタント依頼の電話でも「シュラバ」が使われだし、
1978年には、「どこでも普通に聞かれる言葉」として定着していたとする。
笹生那実は、美内すずえが1970年前後に言い始めたのではないかと推察しているが、
むろん、断定しているわけではなく、さらなる情報を教えてほしいという立場だ。

というようなよもやま話を、当時の原稿やカットを交えて描いているので、
アシに入った美内すずえ、くらもちふさこ、三原順、樹村みのり、山岸涼子を始め、
たまたま話題に上った萩尾望都、木原敏江に至るまで、
それぞれの漫画家の線を笹生那実が絶妙に再現させながら、描いている。
アシスタントに入った先生の似顔も、それぞれの漫画家の線で描くという芸の細かさだ。

きっと、ものすごく大変だったのだろうけれど、ものすごく楽しかったに違いない。
そんなことを十分に感じさせられた笹生那実の32年ぶりの再々デビューなのだった。

ところで、美内すずえの言葉は、やっぱり関西アクセントで読まなあかんのやろなあ。
1 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年02月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829