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2019年12月16日14:10

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いだてん最終回「時間よ止まれ」を見る

ああ、楽しかった。本当に楽しかった。なのに、泣けた。
「一番面白いこと」が本当に起こった東京オリンピック開会式なのに。

それは、クドカンがこれまで描かれてきたすべてのひっかかりを丁寧に拾い上げ、
当時生きていた人たちを開会式会場周辺に集め、
(ということは、清さんも小梅も増野さんも美川も亡くなっていたのかもしれません。)
一人ひとりの物語を美しく磨き上げたからなのでしょう。

その日、青空が広がっているだけで、昨夜のマリーさんの占いが思い出され、
前日、雨と決め込んで飲んでいた(史実)ブルーインパルスの隊員が思い出されます。

観覧席には、野田、高石、鶴田、大横田らのロス水泳メンバーの顔も見えます。
ロスオリンピックは田畑の中の最も輝かしい時間の象徴であり、
田畑の考えるオリンピックの理想の姿でした。

まずは、国旗掲揚です。
帰国した選手たちの(そして自身の)無念を感じた吹浦は、
まるで陰膳を供えるかのようにインドネシアと北朝鮮の国旗を控室で掲げます。

水明亭に水を借りた四三は、ためらいなく坂井に水を浴びせます。
改めて言います。姜尚中さん、あなたのせいです。
そして、冷水浴は、実は諦めきれない四三の思いをつなぐ儀式でもあります。
坂井は四三の思い、そして治五郎先生の願いとともに聖火を運びます。

観覧席に戻った四三の横には、可児と野口の生き残った残念ブラザーズが並びます。
可児先生が治五郎先生の写真を抱えているのは、
自分が最も治五郎先生についての記憶を抱える者だという自覚があるからなのでしょう。
あなたが勝手に優勝杯を作った時には、こんな日が来るとは思いませんでした。

帰国するインドネシア選手団から思い出されるのは、
アジア大会でインドネシアから帰国しなかった日本選手団です。
今回も通訳を務めるアレンは、帰国しなかったことで解任された田畑を思いやるように、
「このオリンピックは田畑のオリンピックだ」と宣言します。
ありがとう。アレン。

そして、ジジイの田畑や四三は、そんなオリンピックの開会式の日にも、
小松ら学生たちが出征した1943年の記憶を重ねるのでした。
戦後、平和国家として生まれ変わり、やっとたどり着いたこの日、
辛く悲しい過去の記憶がしっかりと刻み込まれているからこそ、
観覧席の「ばんざい」の声はなりやみません。
(それは、ニセ作法通りに誰かがやった両手を内に向ける珍妙なものではありません。)

一方、落語パートです。
寄席で富久をかける志ん生は、マクラで小松と五りんをめぐる因縁を語りますが、
絶妙に「笑いの方へ持っていく」ので、高座で語られる噺は
私たちが知っている小松と五りんの物語とはずいぶん落差があります。

そんな志ん生のことを知ってか知らずか、
聖火代わりのレンゲを持って芝に向かって駆ける五りん。
そして、知恵ちゃんの出産の知らせに浅草に駆け戻る。富久は、これでなくっちゃね。
やはり、五りんが走る場所は、落語の中にあったようです。

そして、オリンピックそのものの話は必要最小限にして、
物語は、最後に閉会式当日の北ローデシアの独立につなげます。
ここでも、ストックホルムでのプラカード問題の記憶に戻ります。
四三の「日本」へのこだわりは、私には非国際人的な振る舞いと見えていたので、
他国の国旗・国歌への敬意としての再登場には驚かされました。

そんなことがあったためかどうかはわかりませんが、
閉会式は、「共産主義、資本主義、先進国、途上国、白人、黒人、黄色人種、
ぐっちゃぐちゃにまじりあった」ものとなりました。
生真面目な松澤を頭を抱えますが、
これこそが田畑が世界に、そして何より治五郎先生に見せたい日本の姿なのでした。

フィナーレは、ストックホルムでの四三のゴールシーンです。
「いだてん」であるからこそ、四三で締めくくるのがふさわしいのですが、
さすがに、第二部は田畑の物語となるので、
ここまでは描かないだろうし、描けないだろうと思っていました。

終盤になって、こっそり四三の登場回数が増え、
最終聖火ランナーを激励するという見せ場まで作られては、
四三こそが「いだてん」という「東京オリムピック噺」を
違和感なく閉じるのにふさわしいと思わせました。
さすが、クドカン、巧妙です。

そして、この「いだてん」という名の
志ん生の「東京オリムピック噺」は、絶品。

というわけで、今回の秀逸は、
森西の後任のタクシー運転手として登場した宮藤官九郎でも、
最終回だけの割に意外と出番の多かった水明亭亭主のカンニング竹山でも、
隠し球として、しれっと登場した聖火ランナー係員の吹越満でもありません。

本当の隠し玉はこれ。
もはやジジイの時代ではないという東京オリンピックを象徴するかのように、
一瞬の登場だけでも輝いていた、ラス前の聖火ランナー役・清田みくりの
「無限の未来と可能性を持った」瑞々しさ。
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