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2019年12月12日16:52

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「デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展」を見る

阪急百貨店うめだ本店で開催中の
「デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展」を見ました。

要は原画展なのですが、「ポーの一族展」と題されているだけあって、
「すきとおった銀の髪」から「ユニコーン」まで一作ごとに丁寧に紹介されており、
宝塚歌劇のコーナーでは衣装や小道具、舞台の写真もありました。

とはいえ、「デビュー50周年記念」だけあって、続く「トーマの心臓」のパートでは、
本編以外にも「湖畔にて」「訪問者」「11月のギムナジウム」が紹介されます。
さらに「11人いる!」「ゴールデンライラック」から「なのはな」「王妃マルゴ」まで、
萩尾作品の有名どころの原画が数点ずつ展示されておりました。

そんなわけで、「原画展あるある」の
「普通にマンガとして読み流しそうになる」に注意しつつ、
原画ならでは線の美しさや描写の細かさを堪能したのでありました。

まず特筆すべきは、画像で紹介されていた波津彬子さんが所蔵の原画の数々です。
波津さんの姉・花郁悠紀子さんは、萩尾さんのメシスト・アシストを経てデビューし、
人気漫画家の仲間入りをして間もなく、26歳の若さで亡くなりました。
そんなご縁から花郁さんが萩尾さんからもらった5点と波津さん自身がもらった1点が、
波津さんのコメント付きで披露されました。

諸事情で描き直したために「日の目を見なかった/不要になった」ものもありますが、
入院中の花郁さんのお見舞いとして描き下ろされたものもあって、
いずれも二度と見ることができない貴重なものでした。

また、「月刊フラワーズ」誌上の呼び掛けに応じて、
読者プレゼントとなり散逸していた「トーマの心臓」の扉絵8枚が、
一堂に会したのも貴重な機会でありました。
ちなみに図録に載っていたのは7点なので、途中で1点追加になったのかもしれません。

そもそも扉絵を読者プレゼントにしたこと自体が
今では考えられないほど乱暴な話なのですが、
そう思うと、展示されていた予告カットなどにクドいくらいに「返却希望」とあったり、
中には「返却切望」と書かれているあたりに、
当時の「原画事情」の厳しさを感じさせます。

また、原画の外に書かれた「このあたりに星をカイテクレ」「ホワイト タノム」
といったアシスタントへの指示が、萩尾コメディのように奔放で元気が良く、
欄外に書かれたページ番号さえ、ダーナ・ドンブンブンのように跳ねておりました。

他にも、印刷には出ない緑の色鉛筆で指示のあったとおりに、
きれいにトーンが貼られていたり(そら、そうやろ)、
指示された円を残して点描からベタへのグラデーションが描かれたりするのも、
なるほどと思わせました。

そして、残念ながら、このあたりの手書き文字については図録に残っておりません。
印刷に出ない前提で書かれた緑鉛筆の指示が印刷されるはずもなく、
原画そのものをできるだけ大きく収録することが優先されたために、
ページの外の書き文字までは印刷に収めることができなかったのでしょう。

(ということで、手書きの指示のあたりについては記憶で適当に書いております。
もしくは、展覧会でしっかりと目に焼き付けておかないと二度とみられません。)

会場は狭くはないもののコンパクトで、隣の「蔵元まつり」の方が広かったほど。
ただし、原画自体が小さいので、パネルで仕切られても狭さは気になりません。
というものの、ジグザグに進む動線は「右から左」「左から右」にと交互に進むため、
右から左に進む動線では、特に2ページを組にして展示しているものでは、
後のコマ・後のページが先に目に入るのが難でした。

余談ですが、阪急らしいなと思ったのは、撮影可の歌劇のコーナーになったとたん、
すごい勢いで写真を撮りだすオバサマ方が多かったことで、
しかも、舞台の引きの写真に小さく写った後ろの方の生徒さんを接写していたり、
やっぱり、長く萩尾望都のファンになるような少女たちは
(特に阪急沿線に住んでたりすると)、
もれなく宝塚のファンにもなるのであるなあ、と妙なところで感じ入りました。

ショップは宝の山でした。
使うためというよりも、集めるために存在するような美しいものでいっぱいでした。
ほんのり断捨離モードになっていたので、若ければ買ってたなとか言いつつ、
(若いころは、もっとお金があれば買ってたなと言ってたかもしれませんが)
結局、図録と未読の「斎王夢語」だけを買いました。

図録の悪口も書きましたが、紙質もよく発色もよく大変美しいものでした。
鉛筆の添え書きが印刷された予告カットなどもたくさん載せられています。

巻末には、宝塚歌劇「ポーの一族」を演出した小池修一郎との対談、
エドガー役の明日海りおも交えた鼎談、展覧会に際しての萩尾望都インタビューと、
それぞれに貴重な記録でありました。

続くのは、「100問100答」。
昔、ペーパームーンかグレープフルーツで同じようなことをやってたようなと思いつつ、
答えを見ると、この展覧会に向けての新しいものでした。
どうやら、猫中心の生活をしておられるようです。

さらに、「50周年記念インタビュー」。
こちらは、会場で映像が流れていたものの完全版のようです。
宝塚歌劇版を見て以来、エドガーの顔が明日海りおさんに近づいてしまったそうな。
というほどに、脳と指はつながっている、とのことでした。

また、まんが作品以外のイラストポエムなども網羅した作品年表は充実しており、
長期連載作品が矢印で示されているのも明快でした。(「残酷な神が支配する」が長い。)
収録作品の初出一覧も、予告カットの掲載号も記されていたりで周到です。

さらに、ポーやトーマの頃の創作ノートの複製版が別冊でついていて、
鉛筆で描かれた顔の周囲に、その人物を表現するフレーズが書かれていたり、
「描かれなかった/違う物語に発展した」エピソードや人物が描かれていたり、
さらっと描いてあるだけて、あのシーンとわかるカットがあったり、
創作の秘密も垣間見ることができる大変貴重なものでありました。

この創作ノードを見ていて気付くのは、(作品ではあまり意識しなかったのですが、)
ときどき竹宮惠子さんを思い出させる絵があったことです。
大泉サロン時代に二人の絵が似てきた、という話も納得です。

というわけで、この展覧会は、この後、川崎に巡回する予定だったのですが、
館自体があのような状態なので、いつまで「延期」なのか見通しがつきません。
できることなら、新たに追加的な展覧会が開催されることを望みますが、
こればかりは、祈るばかりしかできそうにありません。

それほどまでに、交通費を使ってでも見てほしい、そんな展覧会でありました。

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