第15巻では「ファラオの墓」(竹宮惠子)のスネフェルばりの蛇目で登場したものの、
第16巻では瀧山の差配と家茂の慈しみにより毒抜きがされたニセ和宮だが、
この第17巻では、女同士でありながらも、むしろ女同士であるからこそ、
正室として家茂と心が通じ合う中になっている。
その背景には、ニセ和宮の絶望がある。
ホンモノの和宮を護るためにニセモノを買って出たというのに、
もしくは、そんな奇策を使ってようやく母の側で生活できるようにもなったのに、
母は感謝してくれるどころか、密かに出家させたホンモノの和宮を思ってばかりなのだ。
隠された存在ゆえに会うこともかなわず、あれほど焦がれていたはずの母は、
ニセ和宮のことをまったく愛そうとも気遣おうともしなかったばかりではなく、
そのことのあやまちにすら、まったく自覚がない。
(それでも母を愛するニセ和宮が懇願することで実現した)
出家を条件に母だけが京へ帰還することを、本当に素直に喜んでしまうほどに。
そんなニセ和宮に、家茂がやさしく寄り添い、舅の天璋院(篤姫)とも良好な関係になる。
(実際の家茂と和宮も、なかなか良い関係であったらしい。)
どのみち大奥で暮らしていくしかないと心を決めたニセ和宮は、
隠された存在として生活する中でつちかったのであろう深い洞察力によって、
いつのまにか、京の情勢に詳しい家茂の重要なブレーンの一人となっている。
また、この作品での将軍後見職・一橋慶喜が
俊才だが冷徹で将軍にふさわしくない人物とされていることから、
家茂とニセ和宮の間では世継ぎをどうするかが、新しい大切な課題となる。
むろん、女同士の家茂とニセ和宮の間には子どもは生まれない。
女将軍の立場からすれば、家茂が側室を持って世継ぎを生むべきところだが、
将軍自ら上洛しなければならないほどに混乱する政局では、
将軍が子を産んでいるような暇はない。(という男女逆転の使い方!)
では、養子を育てるか。他に手立てはないのか。
なんと、これは、女性同士のカップルの家族の持ち方の問題ではないか。
性的描写はないものの、家茂とニセ和宮との精神的なつながりはカップルそのものだ。
どうやら、よしながふみは、
LGBTカップルの子育ての可能性と葛藤についてまで描いてしまったようだ。
「大奥」は、ここまでやってきたのだ。
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