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2015年01月27日17:53

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『醜聞(スキャンダル)』

映画『醜聞 (スキャンダル)』を観た。

(1950年 日本 監督:黒澤明
出演:三船敏郎 山口淑子 桂木洋子 千石規子 小沢栄 志村喬 日守新一 三井弘次
大杉陽一 清水一郎 岡村文子 北林谷栄 左卜全 千秋実 清水将夫 青山杉作)

山口淑子さんの訃報に接して、この作品を録画してあったことを思い出したので…。

【新進画家の青江一郎(三船敏郎)と、人気歌手の西條美也子(山口淑子)。二人がたまたま同じ宿屋にいたところを撮られた写真が、ありもしないラブロマンス記事とともに掲載されたことから、雑誌は大幅に売り上げを伸ばした。一郎は怒りにまかせて雑誌社社長の堀(小沢栄)を殴りつけ、それが話題となり雑誌の売れ行きはうなぎのぼりに。雑誌社に対し訴訟を起こすことにした一郎は蛭田乙吉(志村喬)に弁護を依頼するが…。(allcinema ONLINE)】

黒澤監督が当時所属していた東宝が製作を中止していた間に、松竹で製作された作品。戦後から5年で作られた作品だが、当時の日本映画では珍しい法廷劇。

黒澤監督の著書「蝦蟇の油 自伝のようなもの」によると、そもそもこの作品を撮ろうと思ったのは、電車の中で目にしたある広告に怒りを覚えたからだそうだ。その時、「こういう言論の暴力に泣き寝入りをせずに、勇敢に闘う人間が出てこなければ駄目だ、と思った」というのがこの作品が誕生したきっかけなんだとか…。

黒澤監督は、著書の中で「『醜聞 (スキャンダル)』という映画は甘すぎた」と嘆いている。いざ脚本を書きはじめたら、「思わぬ人物が主人公よりも生々(いきいき)と活動を始めて、その人物に引きずり廻されてしまった」と…。

その人物が、志村喬演じる蛭田弁護士なのは、映画を観れば明白だ。完全に主役の青江を喰ってしまっている。どう見ても頼りなさそうで、腕のいい弁護士には見えない。けれども、いざしゃべり出すと弁護士らしく弁が立つ。口癖のようなフレーズ「危ない、実に、危ない」が印象的…。

フォト


この蛭田弁護士の人間臭さが、情に訴えかけてくるのだ。プライベートでは、病気の娘を抱えたダメ親父。また、娘(桂木洋子)が“お星様”のように純真で、自宅を訪ねて娘に会った青江は、ついつい弁護を依頼してしまう。

演技的には志村喬にすっかり喰われた感のある三船敏郎なんだけど、どっこい、この人のオーラは本当にバカにできない。青江というキャラクターもあるだろうが、図太いほどの存在感には恐れ入るばかりだ。『飢餓海峡』の三國連太郎の半端ない男臭さにもまいったが、これがスターの輝きなんだろうなと思ってしまう。

そして、今回初めて観た山口淑子。スクリーン映えする美貌は、志村・三船のキョーレツな個性に挟まれても輝きを失わない。とても清楚で上品なイメージの女優さんだったのね。

この作品が戦後間もなく作られたことを思うと、がっつりとした法廷劇は期待できそうにもない。青江は「正しいことをしているのだから、必ず勝つ」という、まっすぐな気持ちで法廷に臨むわけだが、今の感覚だと、それだけでは勝つのはなかなか難しい。でも、時代なのよねぇ。青江のその意気込みは清々しくもある。だけど、法廷は思わぬ人物にひっかき回されることになるのが、ちょっと笑えてくるのだ…。

とても印象に残ったのが、クリスマスに酒場で青江と蛭田弁護士が飲むシーン。どこかのオヤジが「今年はダメだったけど、来年こそは」って誓いを立てる。いつの時代も同じ。暮れてゆく年の瀬に1年を反省し、新しい年へ期待を寄せるのね。みんなで合唱する「蛍の光」に胸があつくなっちゃった。…でも、クリスマスなのに、ジングルベルじゃないのね(笑)

なんていうことのない物語だとは思うが、戦後の様子、苦しいながらも人々の活気が感じられる。そして、昔からマスコミって傲慢なものだったのねって思った。

それにしても、山で青江が書いた絵、一度も出てこなかったっけ。黒澤監督自身が書けるはずだと思うから、できれば見せてほしかったな〜。

予告が見当たらなかったので、劇中の1シーンをどうぞ↓


『飢餓海峡』
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1934201757&owner_id=3701419
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