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2017年01月23日23:14

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大いなる称賛とヒットの片隅で(『この世界の片隅に』と祖母の事)

※一部ネタバレあります。

昨年、11月に封切られた映画『この世界の片隅に』が想定を超えるヒットと称賛の声を浴びています。
既に観客動員は100万人、興行収入は15億円と当初の目標を軽々と飛び越え商業的には大成功。
それだけでなく、わが国でも最古の映画賞の一つである「キネマ旬報ベスト・テン」でアニメ映画としては28年ぶりの1位を獲得し、同じく日本映画監督賞をアニメ作品の監督として初めて片渕須直監督が受賞されるなど作品自体の評価も大きなものとなりました。

思えば、制作支援者として人生初のクラウドファンディングに応募したのは一昨年前の春でした。
そして、その年の夏に参加した支援者ミーティング。
あのお世辞にも快適とは言い難い荻窪の小さなホール(ロビーで地元のお爺ちゃんたちが将棋してた…。)で初めて目にしたパイロットフィルムに、静かな涙が流れたのを覚えています。
それから1年半。
作品自体の素晴らしさは分かってはいたものの、無事作品が封切られた事自体で満足していた部分もあったので、この成功と称賛には本当に感激しています。
そして、同時にこれだけの素晴らしい作品に制作支援者として片隅において頂けた事は生涯の誇りに思います。

ところで、この作品がこれだけ大きな反響と評価を呼んだ要因となった魅力は何だろうという事ですが…。
正直、一つに絞るのは大変難しいように思います。
例えば、作品全体に流れるこれまでの日本の戦争映画にありがちだった「戦争の被害にあった可哀そうな人たち」というステレオタイプな表現から一歩踏み出た内容。
もしくは、調理を始めとする家事などこれまであまり顧みられる事がなかった戦中の庶民の生活を描いた描写の細かさ。
戦艦大和などを始め戦闘詳報や手記などを調べ上げて徹底して拘った兵器の描写から、監督自らが音響を務めた、まるで自分の席の近くに落ちてくるかのような焼夷弾の音などの冷徹なまでのリアリティー。
どれも頷けるものばかりで、一つには絞れません。
それどころか、ここに挙げた事柄だけでない多くの視点がまだまだあると思います。
現に私もこれまで3回ほど映画館で繰り返し見てますが、見る度に新しい発見があり、監督など関係者やファンのTwitterや、公式の資料集などを目にして初めて分かった事柄や視点も多いです。
むしろ、その一つに絞れない魅力が魅力そのものと言って良いかもしれません。

私自身は、この映画を見たうえで、まず思い浮かんでしまうのは主人公のすずと、ちょうど同い年で、呉空襲と広島への原爆投下の両方を体験した祖母の事。

劇中、すずが洗濯物を取り込んでる最中、米軍の爆撃を受けおびただしい煙を出して炎上する山の向こうの広工廠の描写…。
そして、1945年の広島から立ち上るキノコ雲を不安そうに眺める北條一家…。
あの場面を見る度に「あの中にばあちゃんもいたんだな…。」と毎回感じずにはいられません。
また、劇中ではすずは右手の治療の影響で広島に帰るのが1週間遅れたから難を逃れた事になっていますが、広島郊外にいた祖母が広島市内の実家に用事で戻ったのは原爆投下の1日前と聞いているので、ここも何となく複雑な気持ちになります。
そして、それでも運よく家族共々生き延びた祖母が自身の体験を語るうえでふと悲しそうな顔をしたのが、広で空襲に遭遇した際に自身の布団は燃えなかったので自分だけ家に帰して貰えなかった時の話だったのもまた思い出します(勤労女学生のうち、布団など家財道具を失った娘は一旦、広島市内に帰して貰えたとの事)。
空襲と原爆という日本の戦争を語るうえで重くのしかかる大きな悲劇と並ぶかのような、自身に降りかかる小さな悲劇…。
聞いた当初は私も何となく肩透かしを食らった気持ちになりましたが、この映画を見た時にはその事が胸にスッと落ちた気がします。
というのも、すずや北條家の面々が教えてくれるとおり、戦争という大きな悲劇の中にあっても、その中で生きる人たちの大半は自身の小さな生活を人は営み続ける努力をしなければならないのですから。
勿論、劇中すずや北條家には布団が燃えた燃えないどころではない悲劇が襲い掛かります。
しかし、それでも今日の献立に悩み…夫婦の関係に悩み…10円ハゲに悩み…と戦争そのものの大きな悲劇とまたスケールの違うものに悩み、それでも前向きに生きていく姿には、布団の話のくだりで悲しそうな顔をした祖母も同じだったのかもしれないと思えてきます。

そして、大きな悲劇の前に人は無力ではあるかもしれないが、しかしその営みは決して弱い訳ではない。

この映画に出てくる人物たちと、祖母の体験を重ね合わせてみると改めてそう思わずにはいられません。

もっとも、これは本当に私自身の勝手な解釈の話。

先ほども書いた通りこの映画の魅力は多岐に渡ります。
聞けば、既に当初よりも多くの映画館で追加での公開が決まっているとの事。
今、先人の苦労の末、平和な世の中に生まれ、劇中のすずのセリフにもある「キャラメルが100円で買えんくなった時代」に生きる人々それぞれに多様な解釈や感動が生まれそれがまた多くの人たちに広がる。

まだまだその楽しみが止む事はなさそうでこれからが更に楽しみです。
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