傍聴3回目は女性の「窃盗」事件の審理でした。
名前は日本人ですし、顔の半分がマスクで覆われた顔は、日本人とあまり変わりがありませんでしたが、書記のお姉さんの隣にもう一人女性が居ます。
直ぐにその女性の役目が分かり、被告の元国籍も判明しました。
通訳は日本語と中国語の同時通訳者でした。
そうすると、私の右前に座ってる男性は、きっと旦那さんか元旦那さんで、彼女は結婚により日本国籍を取得したのですが、その後離婚したのでしょう。
日本語もしゃべる事は出来るそうですが、難しい会話は無理との事で、そのまま通訳が付きました。
さて、彼女の罪名は「窃盗」ですが、平たく言えば「万引き」でした。
程度と言っては語弊がありますが、万引き程度で裁判になるのかと正直驚いたのですが、裁判が進むと、どうもこの裁判は一筋縄では行きそうもありません。
何と、彼女が万引きをした日が、東京で窃盗【これも万引き】をしての執行猶予最終日だったのです。
あと一日。
罪に「一日後なら、前なら」なんてないかも知れませんが、でもあと1日万引きをしなければ、執行猶予4年が過ぎ、今回の罪に前の万引きの罪が加算されることは無いのです。
その部分を検察が突きますが、どうも本人は「執行猶予」をよく理解していなかったみたいです。
検察は更に追及します。
万引きは1軒だけではなく、都合３軒のお店から万引きを繰り返し、総額は５万円を超えているのだそうです。
ここで弁護士が動きました。
ドラマであるじゃないですか？ あれって、本当にあるんですね。
「異議あり！ 検察の質問は本件での審理とは何ら関係がありません」
これを聞いた裁判長は困ったような顔をして、「う〜ん、検察はこの件をあんまり突っ込まないという条件で、お願いします」と随分温情的な発言でした。
検察官も「はい」と応じ、この部分は「こう言う事があった」程度に淡々と進んでいきました。
ただ、万引きをする前にパチンコをしており、そのパチンコで負けている事も事実として発表され、これは被告にとって不利な情報です。
続いて弁護人質問が始まりました。
その中で彼女は、証人として出席している日本人と結婚し離婚が成立。
被告は関東で生活し、在日中国人と2度目の結婚をしたが、酷いＤＶを受け、そこから逃げるように行政のシェルターへ助けを求めたそうです。
在日中国人と離婚調停を始めたところ、相手の男性は在日資格がとっくに切れている不法滞在になっていた事。
調停は裁判になってしまい、離婚裁判を進めている間に精神的に不安定になり、万引きをしてしまい、あえなく御用。
離婚裁判と自分の窃盗の裁判が同時に進み、混乱した彼女は鬱病を発症してしまった。
離婚は成立し、窃盗の裁判も元の旦那さんが身元引受になってくれたようで、執行猶予4年となった。（旦那さんの下りは想像です）
ここで女性弁護士が動きます。
なんと被告が受けたＤＶの内容を事細かに質問して来ます。
彼女はうわずった声で話をし、それを通訳者が淡々と日本語に訳していきます。
その訳を聞けば「全裸にされ、両手両足を縛られ、タオルを口に詰められ、ロープで殴られる」と言う、壮絶なＤＶを受けていたそうです。
さっきの「異議あり」を検索が言ってくれればいいのですが、検察官も聞き入っちゃってるので、ＤＶの部分は結局全員聞いちゃうことになりました。
傍聴席からも洟をすする音が聞こえます。
被告もハンカチでひっきりなしに涙をぬぐいます。
ここまできて、「あれ？」って思いました。
もしかしてこれ、作戦？
弁護士が仕組んだ作戦なの？ って、思いましたが、今はまだ結果が出ません。
最後は裁判官が、前回の裁判が行われた場所、執行猶予の事、元の旦那さんの事などを質問して終わりました。
裁判官も前回の裁判の事を気にしていました。
被告は裁判が行わらた場所を、東京かその周りの街で正確に言えませんでしたが、資料では埼玉地方裁判所浦和支部だったそうです。
被告はＤＶ旦那から逃げるのが精一杯で、詳細は覚えていないとの事。
検察官からの論告求刑がありました。
懲役2年です。
通訳がそれを被告に伝えます。
「两年（りゃんねん）」という単語が聞き取れました。
中国語で2年です。
それを聞いた被告の涙が一気に増え、目元をぬぐい、洟水をすする音が一気に大きくなりました。
明らかに動揺しています。
最後に裁判長が被告を真ん中に立たせ、「最後に言いたいことがあれば」と促され、彼女はうわずった声で最後の発言をしました。
通訳によりそれは訳されたのですが、いたって普通の謝罪の言葉ではありましたが、最後に彼女は「対不起」の言葉で締めくくったのが印象的でした。
そして彼女は再び手錠と腰ひもを付けられ、拘置所へ帰っていきました。
判決も聞きに行きたいと思います。
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