デーヴァナーガリーを入力したい

デーヴァナーガリー文字というのが在る。
こんなのだ。
ॐ श्रीगणेशाय नमः

カタカナで表せば、こんな感じになる。
オーム　シュリーガネーシャーヤ　ナマハ

意味はこう。
唵、栄光あるガネーシャ神に帰命したてまつる

象の頭の姿で有名で、
日本では自己啓発をテーマにした小説の主人公にもなっている。
ドラマ化では古田新太さんというキャスティングが最高だった。
日本の中でこれ以上に象の鼻が似合う俳優はおるまい。

サンスクリット語である。
「クリット」のところが言語という意味なので、
サンスクリットと言えばいい。

古代インドの聖典であるヴェーダを伝えてきた言語だ。
その際、文字は使われない。
全て、口伝だった。

その聖典を後代になって研究するにあたって、
文字にするべえということになり、デーヴァナーガリー文字が使われた。

文字の無い言語なんて、と思うけれども
それは現代人の感覚だ。
日本語だって、中国から漢字が入って来るまでは文字など無かった。

あやしげな’古代文字’が’発見’されているが、
その文字が表している音が現代日本語の発音なので、
どうも眉唾くさい。
なんたって、そういう古代文字が何種類も発見されているからスゴい。

サンスクリットで、「言葉」のことをशब्दः シャブダと言う。
शब्दःには他に音とか声とかいう意味も有る。
も、というより、音も声も言葉も、同じ一つのもの
ということと捉えたほうが近いのだろう。

人の発する音は声でありそれは言葉である。

逆に言えば、言葉は声によって音として発することで
意味を持ち、役を果たす。
インドはそう考える。

だから、言葉は文字にした途端に穢れ、力を失う。

※

鍼灸をやりながら、どんどん遡っていったとき、
中国古典医書を学んだ。
『黄帝内経』とかいったものだ。

中国人は、きれいな理論にまとめるのが好きなようだ。
とかく、陰陽二元論と五行論にすっきりと収められている。

古典にありがちだが、
後代に書き改められながら現存する形・内容になった、
と見られる。

学んでみるほど、実際の人間に向き合うほど、
五行論では納得いかなくなっていく。

その頃に出会った始原東洋医学は、
医論が文字化される前の
本当の古代の医はどんなだったのか、
という態度で研究していた。

※

文字にしたら言葉が力を失う、というインドの感覚は、
分かるような気がする。
というより、言葉にした途端に間違ってしまう気すら、する。

शब्दःという単語が、言葉という意味以前に声、
さらには音という意味であったように。

Dancin' all night 言葉にすれば
Dancin' all night 嘘に染まる
もんたすげえ

※

ヴェーダができた’古代’とは、紀元前10〜５世紀頃と言われる。
全て、師から子へ、口授される。

憶えるのたいへん。
だから、韻文になっている。
ただの文章よりも歌のほうが憶えやすい、っていうやつだ。

サンスクリットは音の数とリズムで韻律を作る。
その点、日本語の韻文と似ている。
（五七の韻律が成立した時期は明らかになっていないが、
分かっているのは７世紀には有った、ということがせいぜい。）
（じゃあヴェーダの韻律はいつ頃できてきたのか、
口伝する中でどのように成立してきたのか、なんてなことは
今後のお勉強課題。）

※

神様を称える’マントラ’というものが有る。
ガネーシャを称えるものの一つが先ほど揚げたもの。
ॐ श्रीगणेशाय नमः

もとは音であり、デーヴァナーガリーで表しているのは
あくまで便宜をはかってのこと。
文字にしてしまうのなら、なんの文字でもいいじゃん、ってことになる。

ローマ字で表すパターンもできている。
om śrīgaṇeśāya namaḥ

サンスクリットには、ローマ字には無い音が有るので、
上に斜線を付けたり、上や下に点を付けたりして表している。

文字にこだわる必要が無いんであれば、日本人としては
自分のルールを作ってカナで表したりしてもいい、ってことになる。
オーム　シュリーガネーしゃーヤ　ナマは
なんてな具合に。

ただ、デーヴァナーガリーはサンスクリットを表すために作られているから、
読み書きできるようになってしまえば便利である。

※

デーヴァナーガリーやサンスクリットのローマ字表記を
パソコン上で自由に入力したい。
という欲求が出てきた。
サンスクリットを学び始めて数年経って、やっとのことだ。

それにはきっかけが一つ二つ有る。


つづく