6月末に同居していた母が特別養護老人ホームに入居した。
8年前に亡くなった父の遺品の整理も、母があまりしたがらないのでほったらかしていた。
母の目も無くなったし、片付けようではないか。
台所から続いて三畳間が有る。
以前は、母が机を置いて仕事場にしていた。
その後、寝室である和室に置いていた箪笥二棹を入れ、私が使わなくなった細長いクローゼットを入れ。
通路を残すばかりの場所となった所を、犬のトイレとして使っていた。
片付ければ広くなる。
まずは細長いクローゼットを確認する。
亡父の背広やネクタイが入っている。
亡父は着道楽の全く無い人だったので、そもそも服が少なくてよろしい。
クローゼットの中は少しカビのにおいがした。
服は全て捨てた。
洋箪笥を開けると、母の服がたくさん吊ってある。
教員をしていたので、パリッとした服がたくさん有る。
コートも好きだったのか、何着も有る。
古い服はずっしりと重い。
これは、そのうち古着屋にでも持って行こう。
よそいきの服を着る機会は無いし、
古い重い服を着ると重たがる。
和箪笥には着物や帯や小物が詰まっている。
母はまったく着る習慣が無かったから、
母の母の物なのだろう。
※
友人Mは手芸のたしなみが有る。
好きな物が有れば、持って行ってもらおう。
「泥棒さんは下から順に引き出しを開けるんだよね」
などとホクホク笑いながら箪笥の中身を調べ始めている。
時々「わー」とか「反物が有ったよー」とか言うので、
私も様子を見に行く。
「これなんかカワイイ」と言って、
持ち帰る物として分類したりしている。
紙に「藍大島」と書いてあるのは、私も開くのが楽しみだったが、
まったく違うなにやら襦袢が入っていてガッカリした。
「これはさすがにどうにもならなそうだし化繊っぽいから捨てだね」
など、いくつかの物を分別してくれた。
ゴミ袋ひとつ分くらいは棄てる物が出た。
箪笥全体からしたら氷山の一角だが、
どうにもならない物だけでも処分してあったほうが、
後の作業がしやすい。
助かる。
「これも捨てだね」と厚紙をポイ。
拾って裏返すと、写真入れだった。
あぶないあぶない。
開いてみると、結婚記念の写真だった。
両親のものではない。
誰だっけ。
子どもの頃は時々会ったことのある、親戚の顔。
数時間後、思い出した。
亡父の先妻の両親だ。
※
「またなんか出てきたよ。これも写真かな」
と、厚紙の平たい包みを渡してくれる。
紐をほどいて、開いてみると、
何かの絵が薄紙に挟まれて何枚か重なっている。
「あ!これは、久々に出たんじゃん?」
出た。
春画である。
髷を結った男女が絡み合って、局部が顕わに描かれている。
「いいもんなんじゃないの?」
とんでもない。
江戸の枕絵をイメージして描かれた、とんでもないシロモノだ。
おもしろくもなんともない。
局部もなんだかちょっとリアルに描かれている。
版画の風合いとか、体の動きの表現とか、
着物の柄や色の美しさとか、室内の調度や小物の楽しさとか、
絵として見るべきものが、全く無い。
ゲエッ
ろくでもないものを見てしまった。
※
しかも、母の箪笥に有った、ってどうゆうこと?
今までの秘宝は亡父の荷物から出てくるばかりだったが。
とにかく、
おもしろみの無い絵ほど気分の悪いもんは無いな。
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