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2018年12月10日12:54

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三谷幸喜さんの新作ミュージカル『日本の歴史』

 三谷作品に関して言えば、昨年の『子供の事情』はネット抽選、前売り、当日券、すべてに敗れたが、今年三月の『江戸は燃えているか』に続いてこの舞台も当選できた。イープラスの抽選にハズれ、チケットぴあの一次抽選と二次抽選にハズれ、残るはローソン・チケットとなった土壇場で当選したのだ。しかも前から九列目。先日もライオンズファンクラブ優先の抽選に当選し、初めてクライマックス・シリーズを観戦できた。運が向いてきたのか、俺?
 というわけで肝心の舞台。
 日本の誕生から第二次大戦までの約千七百年を描いた二時間三十分のミュージカルは、七名の出演者、中井貴一さん、香取慎吾さん、新納慎也さん、川平慈英さん、シルビア・グラブさん、宮澤エマさん、秋元才加さん、一人ひとりにスタンディング・オベーションを送りたいほどの名作だった。
 じつはぼくは愚かにも、日本の歴史のダイジェストを喜劇仕立てにしただけなのだろうと短絡的に予想していた。それで、卑弥呼は誰が演じるのかなとか、幕末はどのように切り取るのかなといった興味だけを抱いて、期待も薄く世田谷パブリックシアターに向かったのだった。
 とんでもない大間違いだった。構成、演技、歌、ダンス、すべてにおいて非の打ちどころのない第一級のエンターテイメントだった。

(注意! ここから先はネタバレありです。)

 たしかに日本の歴史のダイジェストなのだが、ひと工夫あった。日本の歴史と二十世紀初頭にテキサスにやってきた移民の家族の物語をシンクロさせることで、いかに歴史というものは繰り返されるか、そしてそれは国であれ家族であれ同じであるというメッセージが強烈に伝わってきた。
 冒頭からそうだった。農場を発展させて子供たちを養っていくと移民の未亡人が覚悟する場面のあと、国を発展させて国民を養っていくと卑弥呼が覚悟する場面が続く。両者は規模こそ違えど同じ覚悟を抱いているのだ。
 また、全編をとおして何度か歌われるこんな意味の歌があるのだが、コミカルでありながらじつにリアリティがあった。
「何とかなるものさ。何とかならないことでも何とかなるものさ。何となく」
 そう、物事は何となく収まるところに収まるものなのだ。
 そして終盤、日本の歴史がずっと進んで第二次大戦に入ったとき、交互に描かれてきただけで日本の歴史とはまったく接点のなかったテキサスの移民家族の末裔がその戦争に出兵し、日本の兵士と向き合うことになる。そして悲劇が起こる。
 ラスト。息子を亡くした娘にシルビア・グラブさんが歌うこんな意味の歌は感涙ものだった。
「あなたが感じた悲しさは、いつか誰かが感じたもの」
 そうなのだ。日本に限らず、歴史とはすなわち戦いの歴史のことであり、その中で悲劇が繰り返されている。
 出演者たちは早着替えだけじゃなく役柄もたくさんあるからさぞ大変だっただろう。ある場面では主役だった者が次の場面では脇役になっていたりの連続。しかもほとんどの場面で舞台上には五人ほど立っているのだから全員が休む間もない。しかし歌もダンスも乱れることなく、一丸となってこの舞台を作り上げていた。プロフェッショナルを感じた。これだけの舞台がたった七人で演じられたことがぼくは今だに信じられない。
 ぼくの演劇体験で、疑いようのないAプラスの舞台だった。
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