日記記事としては久々に書いてまいります。11月1日を投票日として10月12日より、大阪市内では市内在住の有権者を対象に、「大阪市廃止、特別区設置を問う住民投票」が告示されています。所謂「大阪都構想」と言われているものの是非を問う住民投票です。
賛成派は「大阪市廃止で大阪はさらに成長する」と言い、反対派は「大阪市が廃止されると住民サービスが悪化する」と盛んに訴えています。私は残念ながら大阪市在住ではなく、投票権がありません。しかしながら、この住民投票には大きな不安を抱えており、居ても立ってもいられず「ネット運動」を自分なりに起こそうと思いました。
ざっくりと結論だけ言えば、前に「朝の歳時記風日記」で示したように、私は大阪市の廃止に反対の意志があるのですが、敢えて住民サービスがどうのこうのの問題ではなく、そもそも「都構想」という考え自体が実は非常に危険である、そうした角度から訴えていきたいと思います。
2020年現在、「都(と)」と称している地方公共団体、所謂「都道府県」は、東京都1つだけとなっており、東京都には都心部に23の「特別区」が存在しています。東京23区以外の地域には、町田市や三鷹市などの市町村から成る「(三)多摩地方」、伊豆諸島、小笠原諸島などの「島嶼部」の市町村が東京都に所属しています。
東京23区の地域は、他の地域に比べても飛び抜けて栄えているイメージを持ち易く、それゆえ、東京都に所属する23の特別区は「東京市が発展したから特別区になった」と考えがちですが、それはとんでもない話であり、東京都の歴史を紐解くと、実は東京23区は「かわいそうな自治体」である事が見えてくるのです。
日本は、江戸時代までは「藩(はん)」なる区分けがあり、明治維新で藩が廃止され、県が設置された「廃藩置県」という改革が行われた事については、皆さんもご存じの事と思います。
廃藩置県の際、たくさんの「県」が置かれましたが、全てが「県」になったわけではなく、当時の明治政府が重要とみなした地域は「府」とされました。そうです、東京、大阪、京都の3つの自治体が「府」とされ、それら以外は「県」とされたのです。
1878年(明治11年)、郡区町村編制法という法律に則って自治体が置かれ、市なる自治体はありませんでした。今の東京23区に当たる地域には、15の区、6の郡、380余りの町村が存在していました。まだ三多摩地方は武蔵野の自然が残り、東京23区に当たる地域でさえ、都心部の15区と宿場町だった品川や千住などを除けば純粋な農村地帯だったそうです。
それが時代の移り変わりと共に開発、発展がされる中で1889年(明治22年)5月1日、市制町村制が施行され、基礎的自治団体という立場の「市」が設置できるようになりました。これにより東京府の15区がある地域に東京市が置かれ、区は東京市の下部組織として存続する事になりました。
その後、合併や分離が繰り返される中で、人はどんどん東京市へ流れていくようになり、東京府在住の9割強が東京市内在住という状況になりました。
1895年(明治28年)、政府(内務省)は貴族院(今の参議院に当たる帝国議会の院だが、公選ではなく政府の任命で議員になっている人々の集まりだった)に東京市を東京府ともども廃止して東京都を設置し、東京市外の地域(三多摩地域)に武蔵県を設置する案を提出しますが、衆議院と東京市議会が反発して廃案になりました。
この当時から、東京市が東京府と内務省の双方から監督される「二重行政」を課題視する動きが見られ、東京府と東京市を廃止して東京都にする事により、国の直轄団体として包括的に統制したい内務省、貴族院と、当時内務省の任命制だった府県知事を公選制にして地方自治の活性化を図りたかった衆議院、東京市などの間で激しいせめぎ合いが起こるようになりました。
関東大震災があっても都政への荒波に飲まれずなんとかがんばってきた東京府、東京市でしたが、遂に1943年(昭和18年)7月1日に、東京府と東京市を廃止して東京都を設置する法律が施行されました。しかもこの当時に設置された東京都は、府県のような「広域的な普通地方公共団体」ではなく、それまでの東京市と同じ「基礎的自治団体」という扱いでした。つまり、東京府が置かれていた地域全体がまとめて一つの「市」と同じ括り方をされ、当時東京市の下部組織だった35の区だけでなく、三多摩地方の市町村や島嶼部の市町村までもが全て「東京都の下部組織」扱いとなり、地方自治体としての権限を全て都に取り上げられた格好になってしまったのです。
その上、基礎的自治団体の長官(首長)は市町村議会での決定(時代によって知事(中央省庁からの派遣だった)の許可が必要だったり不要だったりした)だったのですが、東京都の長官は中央省庁からの派遣でした。つまり、東京府と東京市の両方の「内務省にとって都合の良い」形(長官が中央省庁からの派遣、下部組織に基礎的自治団体がない)を取られたのが「都(と)」なる自治体だったのです。東京府と東京市の合併とも言われた東京都は、庶民の目から見れば明らかな「格下げ」だったのです。
戦後の1947年(昭和22年)5月、地方自治法が施行され、東京都は基礎的自治団体から広域的な普通地方公共団体となり、三多摩地方の市町村の自治体としての権限も復活しました(島嶼部は、小笠原諸島が1968年(昭和43年)に返還されるまでアメリカ占領下に置かれていた)。
ところが、戦時政策で廃止された東京市は地方自治法では復活する事がなく、35→23の特別区は政令指定都市に所属する政令区でもなければ、市町村でもない独特な立場(特別地方公共団体)に置かれました。東京市の下部組織だった頃から既に区会(今の区議会に相当)が置かれ、基礎自治体(市町村)とあまり変わらない政治が為されていたからでしょう。しかしそれゆえか、23の特別区は市町村が当たり前に持っている水道局や消防局を持っていず、それらは今なお東京都が所有、運営する形が取られています。又、区長は1947年の地方自治法施行当時は公選制だったのですが、1952年(昭和27年)8月になると法律が変わり、区議会が都知事の承認を得て区長を選出する形になります。1974年(昭和49年)より区長の公選制が復活しますが、そういう事態が起こるほどまだまだ東京23区は都の下部組織なる立場と言わざるを得ず、権限が市町村より弱いのが事実なのです。
という事でまとめになりますが、東京都の歴史をざっくりと申しますと、
�� 「二重行政」は「市における国と府の二重監督」を示し、「府立施設」と「市立施設」の重複とは話が違う。
�� 施行当時の「東京都」は実質、戦時政策による東京市の廃止と、東京府の格下げであり、戦後の地方自治法施行で権限が回復した形になっている。
�� 東京都の23の特別区は、東京都が基礎的自治団体だった頃の名残を残したものと言え、市町村よりも権限が弱く地方自治が困難になっている。大都市として栄えて見えるのは、都や政府、巨大企業の事業の結果に過ぎない。
と言えましょう。
大阪市を廃止し、市内24の政令区を統廃合して4つの特別区を設置するのは、戦時中の東京市廃止ほどのレベルではないもののそれに準ずる危険な動きであり、現行の地方自治法では特別区を市町村に変える為の条項が無いので、一度大阪市を廃止すると元に戻せません。大阪市廃止を食い止めるべく、反対票の投票を心から願います。
次回は、また別の角度から問題点を突いていきたいと思います。
■コトバ解説：「都」「道」「府」「県」の違い - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20110411/mul/00m/010/040000c
■国立公文書館 アジア歴史資料センター
https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/A15113054000
■区議会のあゆみ｜渋谷区議会
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/gikai/about/ayumi/index.html
■大東京35区物語-15区から23区へ-東京23区の歴史
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/01soumu/archives/0714tokyo_ku.htm
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