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2021年07月29日01:16

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★ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチール・ラット 大統領となる』

<7-3+α>
加藤直之画
『ステンレス・スチール・ラット 大統領となる』
ハリイ・ハリスン作
画像
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=301608345
(全5巻の表紙絵がずらり掲載)
 『ステンレス・スチール・ラット 大統領となる』は、アメリカ帝国主義のSF的な合理化ではないかな、という気がしてきたが、必ずしもそうは言えないだろう。
 「なにしろ盗みはすれども非道はせず、〈特殊部隊〉に徴用されても泥棒稼業からは決して足を洗わず、そして助けを求めるがあれば、銀河の果てまで駆けつける。」(三村美衣、『サンリオSF文庫総解説』)ということの裏にはアメリカ帝国主義の暗い影に気づきながらも、明るく振る舞おうとする米国民の共同幻想が読み取れる。しかし、〈特殊部隊〉に米海兵隊の臭みを感じるのは私の偏見かもしれない。
 『ステンレス・スチール・ラット 大統領となる』では、救いを求める一枚の紙切れに呼ばれ、ジムとアンジェリナは独裁者が支配する惑星パライソ=アキに向かう。
パライソ=アキは、「ここは天国」の意。ポルトガル語。英語のパラダイスparadiseにあたる言葉で、天国・楽園を意味するキリシタン用語だそうで、遠藤周作『沈黙』には。「苦しいゆえにただパライソの寺をたよりに生きてきた百姓たち。」とある。閑話休題。
 豪華な観光リゾート惑星という評判のパライソ=アキだが、海千山千のジムとアンジェリナの目からすれば、観光客が訪れる場所は制限され、常に見張られている。結局、二人は惑星外追放される。いったん引き下がったジムだが、民主主義の名のもとに独裁政権に虐げられているパライソ=アキの民衆を救うべく、息子2人を招集し、一家4人そろって、再びパライソ=アキへ向かう。
詳しくは
https://maruni.at.webry.info/201612/article_10.htmlを読んで頂きたいが、成り行きでジムが現地の「内気で目立たず、何の取り柄も野心もない」の人物に成りすまし、大統領に立候補する破目になる。少人数でキャンペーンを成功させるために、ジムらは人工衛星を使った独占放送網を乗っ取って効果的に番組を流し、「その結果、マスメディアをめぐる熾烈な攻防戦が繰り広げられ」「最後にものを言ったのは、投票結果の集計システムをどうコントロールするか、ということでした」
 この状況は現代米国における大統領選がメディアをめぐって猛烈な争いをしている様子を思い起こさせる。
 20年ほど前、わたしが入院した大学病院で聞いた話。中米某国で反乱が起きた際、米国の駆逐艦だかで日本製の黒白TVを流したという。プロパガンダのためだという。
 米国が帝国となるきっかけになったのは、
1898年の米西戦争で米国が勝利し、フィリピン・グアム・プエルトリコを獲得し、キューバを保護領としたことに始まる。「戦争前にはスペインの劣悪な原住民支配を批判し、獲得後は逆に各国の独立運動を弾圧した。キューバは事実上、アメリカ合衆国の支配下におかれた。」
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol45/index.html)
 ではジムが惑星パライソ=アキの大統領になった後、この惑星はどうなったのであろうか。
最後になったが、表紙絵は大統領選に大活躍したTVカメラ型宇宙船ではなかろうか。

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