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2021年07月27日23:32

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★ハリイ・ハリスン『ステンレス・スチール・ラット 諸君を求む』 (再、改

1-7
加藤直之画
『ステンレス・スチール・ラット 諸君を求む』
ハリイ・ハリスン作
画像
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=353989993
 3万年後、地球人類はどうなっているだろうか。いや、どうであってほしいか。ハリイ・ハリソンと愛読者の共同幻想はこうである。地球人類は銀河系の各惑星と連合を築き、それぞれステンレス・スチールで作られた建造物で覆われた世界は概ね豊かで、平和な方向に安定する。しかし、その共同幻想はそれだけでは満足しない。
 「ステンレス・スチール・ラット」こと、 悪党稼業にいそしむ「するりのジム」は突然逮捕され、〈特殊部隊〉に入隊させられる。悪党退治に駆り出されるが、簡単には無条件降伏はしない。悪党稼業を続けながらの入隊が許容される。というより、もともとそういう組織であった。
 どうやら米国的性格のひとつに悪党を求める傾向があるようなのだ(O.E.クラッブ『英雄・悪漢・馬鹿』)。どうやら米国社会は悪党が必要不可欠のようだ。ハリイ・ハリソンはそこにステンレス・スチールのある特異な性状に着目する。

 まずは、そもそもステンレス・スチールなるものが存在しえるのは、1761年のクロム(原子番号24)の発見に溯る。ステンレス・スチールは鉄とクロムの合金だからである。19世紀後半、金属組織学の成立やテルミット法の発明によって実用化が進展し、第1次大戦の前夜1913年、ステンレス・スチールが開発された。「不働態皮膜は傷ついても一般的な環境であればすぐに回復し、一般的な普通鋼であれば錆びるような環境でもステンレス鋼が錆びることはない。ただし、万能な耐食性を持つわけではなく、特に孔食、すきま腐食、応力腐食割れといった局部的な腐食は問題となり得る。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%B9%E9%8B%BC
 時は跳んで、人類が銀河系に進出した3万年後の未来、ステンレス・スチールで作られた建造物で覆われた世界は概ね平和で清潔で豊かな方向に安定していた。しかしどれだけ完璧な社会になろうと、そのステンレス・スチールのいわば「孔食、すきま腐食、応力腐食割れといった局部的な腐食」に巣食うネズミががあってこそ社会が成り立っているのだ。
 
 このネズミが、一転、体制維持の特殊部隊にスカウトされる。江戸時代の目明しのように犯罪人を釈放して犯罪者逮捕に協力させられたように。それこそがステンレス・スチール・ラットである。いや、それでも目明しのなっても悪事をしているようでは許されなかったはず。
いわば鼠小僧ぼようだという説もある。大名屋敷で盗んだ金を貧乏人にばら撒いたというのだが、ステンレス・スチール・ラットはそんな慈善事業なんかしない。鼠小僧次郎吉だって、実は酒と女と博打に浪費したという説が定着している。
 むしろ、佐藤雅美『六地蔵河原の決闘』の「小悪には目をつぶるが、本物の悪は許さない」関東取締役出役の十兵衛が、関八州の悪党を追い詰める天真一刀流の剣が冴える、なんてぇ話に似ている面がありそうだ。

 『ステンレス・スチール・ラット 諸君を求む』は、実は『ステンレス・スチール・ラット』シリーズの第4作にあたる。第1作はその名もズバリ“The Stainless Steel Rat”で1961年に刊行された。本書では<7-5>でとりあげる。

 ところで、アイザック・アシモフの“The Caves of Steel”が1953年に刊行され、『鋼鉄都市』として早川書房から翻訳刊行された。
このCavesはプラトンの洞窟の比喩に基づくようだが、複数であるのはどうしてか。都市国家群ということだろうか。ともあれ都市と訳したことに私は賛同する。
 ハリスンからアシモフへに、鋼鉄Steelからステレンレス・スチールへの進化が見られるといったところだ。『ステンレス・スチール・ラット』は、アシモフの『鋼鉄都市』を踏まえ、それを止揚しようとしたものではないか、という仮説を私は提示したい。

 あらかじめ定義を確認しておこう。鋼鉄とは「炭素を0.04パーセントから2パーセント程度含む鉄の合金」をいう。純度の高い「鉄」は酸化しやすく柔軟性に乏しい。その脆さを補填するために炭素量を増やした合金を鋼鉄と呼ぶのだ。それに対して、ステンレスはクロム含有量が 10.5 %(質量パーセント濃度)以上、炭素含有量が 1.2 % 以下の鋼と定義される。

 さて、『鋼鉄都市』の世界は、Wikiのまとめのよると「超光速航法(ハイパースペース・トラベル)の実現によって、限られた人々が太陽系外惑星に移住し、ロボットの助けを借りて新世界を建設した。やがて彼らは自分達の生活水準を維持するために、厳格な人口調節を行うと共に地球からの移民を禁止した。数千年後には、彼らの子孫であるスペーサーの居住惑星は50個を数え、「スペーサー・ワールド」と呼ばれる様になっていた。
 地球からの植民に際して疫病性微生物やその宿主・媒介者となる生物を除去する事で、あらゆる伝染性の疫病を駆逐したが、その代償として免疫抵抗力をほとんど失っている。また遺伝子改良によって寿命は300年以上に延ばされている。加えて、老化した組織や器官などを補修する外科技術も進歩している。」
というのだ。
 さらに「いずれのスペーサー・ワールドでも多数のロボットが使役されており、家事や身辺の世話、生産活動などに従事している。住居はロボット達によって警備されており、個人にも常に一体以上のロボットがエスコートに付いているため、事実上暴力犯罪といったものは不可能であり、警察あるいはそれに相当する組織は存在しない(言うまでもなくこれらのロボットは全てロボット工学三原則に従っており、仮に犯罪や自殺を企てたとしても普通は自分のロボットに止められてしまう)。」のである。
 この高度な人間/ロボット共存社会は双方の主要構成元素に因んでC/Fe文明と呼ばれている。大学の化学の先生を務めたアシモフのことだから、ステンレス・スチールのことは重々承知だったろう。しかし、ロボットとの共存を第一とするC/Fe文明を強調する目的で、ステンレスを度外視したのではないか。
 一方、ハリイ・ハリスンはいくら病気や犯罪から逃れようとも、その代償を払わざるをえない。それくらいなら、病気や犯罪といった腐食があろうとも、不働態皮膜ですぐ回復
出来るようなステンレス社会こそが強靭であろうと訴えかける。それでも局部的な腐食は問題になり得る。局部的な腐食に相当する「ラット」を逆説的ながら活用しようじゃないか
というのが、『ステンレス・スチールラット』
の根源的は発想だと思う。
 えっ『ステンレス・スチール・ラット 諸君を求む』にチ〜トモ触れていないじゃないか、ですって。まぁね私の下手な解説よりも
https://maruni.at.webry.info/201305/article_3.html をどうぞ!とにもかくにも異星生物との戦いがテーマ。それにふさわしいのが表紙絵だと考えておきましょ。

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