“車内快適性”だけじゃない――JR東海の開発者が明かす最新型新幹線「N700S」2つの「真の狙い」
JR東海は700系新幹線車両の引退イベントを2020年3月に実施する。同車両は1999年に営業運転を開始して以来、20年にわたって走り続けてきた。
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幕引きを迎える700系と引き換えるように、新しい車両が20年から走行を開始する。それは「N700S」だ。東京オリンピック開会前の7月からの営業運転開始が予定されている。N700Sは07年に登場したN700系をベースにさまざまな点が改良されている。
●N700系以来のフルモデルチェンジ
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●設計責任者が語る「一番の変化」
だが、一番の変化は車両の上ではなく、その“下”にこそあるのだという。N700Sの設計責任者である、JR東海・新幹線鉄道事業本部車両部車両課の福島隆文課長はこう説明する。
「お客さまに対しては快適性という点でもさらなる追求をしましたが、前のN700Aとの大きな違いは安全性です。N700Aよりさらに短いブレーキ距離で停車できるようになったほか、特に大きいのがバッテリー自走システムを取り入れた点です。特にこの点で車両の下が別物になっていると言えます」
バッテリー自走システムとは、車両下にあるバッテリーに予備電力を蓄えておくことで、停電時に架線からの給電がなくても自力で走行できるシステムのことだ。福島課長はこう続ける。
「バッテリー自走システムにより、停電でお客さまが車内にとどまっていたような場面でも、最寄りの駅や安全な場所まで移動していただけるチャンスは大きくなると思います」
N700Sの登場により、乗客が長時間車内に缶詰めにされるという光景は過去のものになるかもしれない。
●「大規模災害」見据え、バッテリー自走訓練を実施
そしてこのバッテリー自走システムは、乗客を避難させるためだけではない。例えば19年10月に発生した台風19号では、その記録的な大雨により長野県の長野新幹線車両センター(JR東日本)が冠水し、新幹線車両10編成が廃車せざるを得なくなったことは記憶に新しい。
バッテリー自走システムはこうした大規模災害時で停電している局面でも、車両自身も自走して安全な場所に避難させられることが視野に入れられるのだ。JR東海は11月13日にも、こうした大規模災害時などを見据え、N700Sのバッテリー自走訓練を実施している。
●もう一つのN700Sの戦略 他社運用が容易な「標準車両」
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これまでのN700系やN700Aなど、JR東海の新幹線車両は16両編成というのが基本設計で、これをこのまま12両や8両などに変えることは不可能だった。N700Sでは新幹線の主変換装置に「SiC(炭化ケイ素)」という次世代半導体素子を使用しており、これによってバッテリー自走システムや「標準車両」を実現させたと言っても過言ではない。
「SiCは高速鉄道では当社が初めてN700Sで実現したものです。これで車両下に備わっているさまざまな機器の小型軽量化や省エネを実現しました。これで旧来の16両編成に縛られない運用が可能になりました」(福島課長)
新幹線は今や国内だけでなく、世界的な乗り物になっている。07年には台湾で新幹線が開業し、JR東海の車両が走行中だ。今後の計画としては、アメリカ(米国)のテキサス州でも同社の新幹線の輸出を見据えている。
JR東海の新幹線鉄道事業本部・上野雅之副本部長も30日、記者団の前でこう話した。
「N700Sは『標準車両』が最大の特徴と言えます。東海道では16両編成ですが、テキサスでは8両、台湾では12両編成になると思います。単純な比較はできませんけども、海外の展開に向けてしっかりした車両ができたと考えております」
また、災害時の運用についても上野副本部長は狙いをこう話す。
「架線が停電してもバッテリー自走システムで自力走行できる機能があるので、台風や地震といった自然災害に対応した機能の進化もさらに開発して参りたいと考えております」
1964年の東京オリンピックでは、開会に先立ち東海道新幹線が開業したことは、もはや教科書を通じて学んだ人も多い歴史的出来事だろう。20年の2度目の東京五輪ではこれほどのハード的進化はないものの、実はソフト面では前回に劣らない、世界戦略や安全面に革新をもたらすイノベーションが新幹線に起ころうとしている事実は、もっと多くの人に知ってもらいたいところだ。
(フリーライター河嶌太郎)
ITmedia ビジネスオンライン
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https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=40&from=diary&id=5951569
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