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2020年01月25日00:03

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検疫は交通機関の発達と大きくかかわっている。かつてのペストやコレラの時代は海外との交通は船舶がおもであった。したがって検疫といえば海港検疫であった。ところが、現代はいうまでもなく航空機時代であり、>>

>検疫も空港検疫の時代となってきた。この空港検疫の難しさは、今回の場合もそうであったように、感染者がまだ発症しないうちに検疫をすり抜けるケースが多いということである≪



船の舳

先さきに異様な扮装をした死神が大鎌を肩にかつぎ、怖ろしげな表情で坐っている。小舟に乗った人たちは手を挙げて船の進入を阻止しようとし、海岸では大勢の人たちが隊列を組んでやはり阻止の気勢をあげ、その後方には消毒液の大砲が整列している。

 これは二〇世紀初頭、イギリスの絵入り週刊誌『パンチ』に掲載された挿絵である。
 じつは、この死神はコレラを戯画化したものである。コレラの進入を防ぐため、コレラ感染者がいると思われる船舶の入港を阻止しようとしている場面を諷刺的に描いたもので、中世的な死神が恐怖感をそそるように描かれているところがインパクトを与える。

 海外からの伝染病の進入を阻止するためには、その有無を検査し、伝染病が発見された場合には消毒・隔離などを行い、個人の行動を制限しなければならない。これは国民の命を守るための重要な制度であり業務である。これを「検疫」という。
 この日頃忘れていた検疫という言葉が、テレビや新聞にたびたび出てきたのが、二〇〇九年、メキシコで発生した新型インフルエンザ発生のときである。
 日本でも五月九日、カナダからアメリカ経由で帰国した大阪の高校生が成田空港の検疫で感染と認定され、隔離や消毒が行われた。その後五月一六日、渡航歴のない神戸の高校生が発症し、初の国内感染となった。空港の検疫をすり抜け国内に入ってきた感染者がいたわけである。これをきっかけに、ものものしい服装をした検疫官の姿が私たちの目に飛び込んできて、あらためて検疫という重要な仕事のあることを認識させた。
 検疫は英語でクアランティンQuarantineというが、これはイタリア語のquarantina(四〇日)から出たものである。
 このイタリア語が使われるようになったのは、史上最大の惨事といわれる一四世紀のペスト大流行のときである。黒死病といわれた中世末期のペストは、ヨーロッパを中心に全世界でおよそ七千万人の死者を算したという。
 このとき、ペスト上陸地点であったイタリアのヴェニスの人びとが初めて検疫隔離という知恵に気づき、ペスト感染の船舶・物資・人間を隔離する手段が制度としてとられるようになった。検疫の誕生である。
 では、検疫のことをなぜ四〇日と言うようになったのか? それは当初、隔離期間を四〇日としたからである。では、隔離期間をなぜ四〇日としたのか? それは聖書に出てくるノアの洪水は四〇日間であったなど、当時の人たちが四〇日に特別の意味を与えていたからであるといわれている。
 この死神コレラの戯画が掲載されたころ、コレラは世界的流行のさなかで、ヴェニスもコレラ流行地となった。トーマス・マンの名作『ヴェニスに死す』は、ヴェニスを訪れた中年のドイツ紳士がここで美少年に心を奪われ、コレラで死ぬという話である。そこに、「ヴェニス当局は必要かくべからざる防疫処置をとった」が、やがて「市民病院の隔離病舎が満員となり」(浅井真男訳)と書かれている。
 夏目漱石は明治四二年に満洲・朝鮮旅行の際、大連で「検疫が見える」、「馬関(下関)着かと思つたら左

様うぢやない検疫の為と云ふ」と日記に書いている。検疫は漱石の関心をそそったにちがいない。
 さて、ペストそしてその後のコレラやインフルエンザなどの疫病は、まず局地的流行(エンデミック)に始まる。それがやがて地方的流行(エピデミック)となり、最後に世界的流行(パンデミック・WHOのフェーズ6)になる。つまり疫病はつねに原発地があり、それが交通機関を通して二次的・三次的感染へと拡大していく。とくにインフルエンザのような感染症はもともとその土地に存在していた疫病ではなく、他の土地から進入してきた疫病である。したがって、その流行を防ぐには、水際で病原体の進入を防ぐことであり、それが検疫という手段である。

 また検疫には人間の感染症だけではなく、動物や植物が汚染されていないかどうか、たとえば食肉検査というような重要な分野があり、動物検疫・植物検疫といわれる。

 検疫は交通機関の発達と大きくかかわっている。かつてのペストやコレラの時代は海外との交通は船舶がおもであった。したがって検疫といえば海港検疫であった。ところが、現代はいうまでもなく航空機時代であり、検疫も空港検疫の時代となってきた。この空港検疫の難しさは、今回の場合もそうであったように、感染者がまだ発症しないうちに検疫をすり抜けるケースが多いということである

 さらに検疫は、多く外国の航空機や船舶に日本の検疫官が乗り込んで行う仕事であり、これは検疫権という国際法にもとづいて行われる。日本がまだ開国したばかりの明治初年は欧米諸国と平等条約が結ばれておらず、検疫権もなかったので、コレラがほしいままに上陸し、惨禍をもたらした。明治三二(一八九九)年の条約改正によってようやく検疫権を獲得し、コレラ流行に止めを刺すことができた。検疫は一国の独立にかかわる重大な権益である。
 検疫こそは、伝染病をはじめ食品による感染被害などから私たちの生命を守ってくれる防波堤なのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー以上転載ーー
http://fasd.or.jp/kikanshi/old_kikanshi/%8B%8CPDF20121212/no23/kyuu_p24.pdf
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