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2020年01月24日23:43

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ワクチンによるウイルス性出血熱の制圧は、少なくとも近い将来には難しいかもしれない。>


ウイルス性出血熱



森川 茂(国立感染症研究所 ウイルス第一部第一室)

はじめに

ウイルス感染症には、出血を伴う症状を呈するものが数多くあるが、特に、エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱の4疾患 (表1) は、患者からの二次感染によりしばしば大きな流行をおこす。
エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱は、アフリカのサハラ砂漠以南に分布し、クリミア・コンゴ出血熱はアフリカ、東欧、中東、中国西部と広く分布する。いずれも、臨床的には、発症初期には突発的な発熱、頭痛、咽頭痛等のインフルエンザ様の症状を呈し、重症化すると出血、ショックによりしばしば死に至る。ウイルス感染者やウイルス性出血熱患者の血液や体液、排泄物を介してヒトからヒトへ感染するため、院内感染や家族内感染により大流行が発生する。他の重篤な出血性ウイルス病とはこのヒトーヒト感染の有無により区別される。
日本ではこれまでラッサ熱患者が1例報告されているのみであるが、出血熱ウイルスの潜伏期の感染者が帰国または日本に入国後発症する可能性があり、検疫上重要な感染症である。伝染病予防法にかわって平成11年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症新法)では、ウイルス性出血熱は、ペストと並び最も危険な感染症として一類感染症に指定されている。また、エボラウイルスとマールブルグウイルスは、輸入サルを介して国内に侵入する可能性もあるため、平成12年1月より成田、関西空港の動物検疫所内にサル検疫施設が設置され輸入サルの検疫が開始されている。

1.エボラ出血熱 とマールブルグ病

1)病原体と疫学:
 エボラ出血熱は、1976年にアフリカのスーダンとザイールで初めて流行し、約600名の患者が報告された。原因ウイルスはそれぞれの流行で患者から分離され、ザイールでの流行地域の河川名をとってエボラウイルス(Ebola virus)と命名された。近年大規模な流行が頻発している(表2)。エボラウイルスは、4つのサブタイプ(ザイール型、スーダン型、アイボリーコースト型、レストン型)に分類される。ヒトに対する病原性は、ザイール型、スーダン型、アイボリーコースト型の順で、レストン型はヒトに対して病原性が無いと考えられている。サルでは、カニクイサルなどのマカク属が感受性が強く、アフリカミドリサルはヒトと同様の感受性を示す。
マールブルグ病は、1967年ドイツ(マールブルグ)とユーゴスラビア(ベオグラート)で、ウガンダから輸入されたアフリカミドリザルの実験に関連して発生し、患者とサルからウイルスが分離され、マールブルグウイルスと命名された。マールブルグ病は、その後アフリカで数回の散発例が報告されるにとどまったが、1998〜99年にかけてコンゴ共和国(旧ザイール)で初めて大流行し、100名以上の患者が発生した。

2)感染経路と自然宿主:
エボラウイルス、マールブルグウイルスの自然宿主は不明である。サルが感染源となっているケースでも、サルがどの様に感染したかは不明である。エボラウイルスでは、サルを用いた実験室感染からは飛沫感染をおこすが、ヒトにおける飛沫感染に関しては疫学的には否定的である。アフリカでの健康人の抗体保有に関する調査では不顕性感染があるようである。エボラウイルスおよびマールブルグウイルスのヒトへの感染経路は、感染者の血液、体液、分泌物、血便、臓器、精液等との接触による。患者の皮膚の生検材料に多量のウイルスが存在するため、患者、遺体との皮膚接触に関しても充分留意する必要がある。

3)症状と実験室診断:

   【略】

4.ワクチンの可能性

フィロウイルスに関しては、GP、NP等を標的にしてDNAワクチン、アルファウイルスレプリコン 、アデノウイルスベクター、組換えワクチニアを用いた動物実験が行われ、細胞性、液性免疫のいずれも有効であるがTh1-typeの免疫誘導がより有効なようである。ラッサウイルスに関しては、アルファウイルスレプリコン や組換えワクチニアを用いた研究から、細胞性免疫の誘導が必要で、特にG1/G2を標的にしたものが有効である。クリミア・コンゴ出血熱ウイルスに関しては、ワクチン開発は全く行われていない。また、ワクチンが開発されたとしても、広範囲にワクチン接種が行われるとは考え難い。また、組換えワクチニアは、HIV感染者の多いアフリカでは現実的ではない。このように考えると、ワクチンによるウイルス性出血熱の制圧は、少なくとも近い将来には難しいかもしれない。

おわりに

ウイルス性出血熱の診断は、その治療と公衆衛生上の特殊性から極めて正確な診断が求められる。出血熱ウイルスの診断で最も信頼できる方法はウイルス分離・同定である。分離・同定までの時間は比較的短く、さらにウイルスが分離された場合の診断の信頼度を考慮すると、ウイルス分離・同定はウイルス性出血熱の診断に不可欠である。また、ラッサ熱では回復後の患者の尿に長期にわたってウイルスが分離されることがあり、回復後のサーベイも重要である。このため1980年に当時の国立予防衛生研究所に2つのBL4実験室を有する高度安全実験施設が建設されたが、いまだ実験許可が下りない。昨今、バイオテロの問題が重要視されるようになってきたため、ウイルス材料、ウイルス遺伝子、患者血清等の入手、使用が極めて限定されてきている。このため、組換え蛋白をベースにした実験室診断法の感度、精度検定を行うための患者血清等の入手さえも困難な状況にある。このような状況の一日も早い解決が望まれる。



表1 ウイルス性出血熱

疾 患 名 原因ウイルス(科) 宿 主 分 布 治療法
エボラ出血熱 Ebola virus(filovirus) 不明 アフリカ中央部 対症療法
マールブルグ病 Marburg virus(filovirus) 不明 アフリカ中央部 対症療法
ラッサ熱 Lassa virus(arenavirus) ネズミ
(Mastomys sp.) 西アフリカ一帯 リバビリン、免疫血清
クリミア・コンゴ出血熱 Crimean-Congo hemorrhagic fever virus
(bunyavirus) 哺乳動物とダニ アフリカ、東欧、中近東、中央アジア、インド亜大陸、中国西部 リバビリン




表2 エボラ出血熱、マールブルグ病の流行


国名


ウイルス 患者数(致死率)
ドイツ、ユーゴスラビア 1967 MBG 32 (23%)
ジンバブエ 1975 MBG 3 (33%)
スーダン 1976 EBO-S 284 (53%)
ザイール 1976 EBO-Z 318 (88%)
ザイール 1977 EBO-Z 1 (100%)
スーダン 1979 EBO-S 34 (65%)
ケニア 1980 MBG 2 (50%)
ケニア 1987 MBG 1 (100%)
アメリカ合衆国 1989 EBO-R 4 (0%)
アメリカ合衆国 1990 EBO-R 4 (0%)
イタリア 1992 EBO-R 0 (0%)
アイボリーコースト 1994 EBO-IC 1 (0%)
ザイール 1995 EBO-Z 315 (81%)
ガボン 1994 EBO-Z 44 (63%)
ガボン 1996 EBO-Z 37 (57%)
ガボン 1996 EBO-Z 60 (75%)
南アフリカ 1996 EBO-Z 2 (50%)
アメリカ合衆国 1996 EBO-R 0
コンゴ共和国(旧ザイール) 1998〜99 MBG > 100 (?)
ウガンダ 2000〜01 EBO-S 425 (53%)
ガボン/コンゴ共和国 2001〜02 EBO-? 122 (79%)
EBO-Z:エボラウイルス ザイール型
EB0-S:エボラウイルス スーダン型
EB0-IC:エボラウイルス アイボリーコースト型
EB0-R:エボラウイルス レストン型
MBG:マールブルグウイルス

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー以上転載ーー
https://www.jsvetsci.jp/veterinary/infect/04-virus-netsu.html
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