前回からの続き。美術館でケンカ別れをしたあの二人は、いまあるカフェでお茶を飲んでる。どうやら、ケンカの後も交際は続いたらしい。
二人ともちょっと変わり者だが、知的で率直な人物のようであるから、もう少し彼らの会話に耳を傾けてみよう。読者諸氏にとっては、私のつなたい講義調の文章よりは学ぶところが多いかもしれない。
その前に、もうしばらくつき合うことになるかもしれない二人なので、名をつけておいた方がよさそうだ。女のほうは愛美(まなみ)さん、男のほうは哲(あきら)くんとでもしておこう。
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「今日は来てくれてありがとう。あんなふうに別れたから、正直なところ、誘っても断られるんじゃないかって思ってた」
「わたしも少し反省したの」
「反省?」
「あのね。実をいうとね。わたし、前にも何人かあの絵の前に連れて行って、同じテストをしたことがあるのよ。哲くんにしたのと同じのをね。みんながみんな褒めてくれたわ。いい絵だって。だけど、あの人たちの目には、絵じゃなくてわたししか映ってない、ってすぐわかったわ。少なくとも、哲くんは嘘はつかなった」
「なんだ。じゃあ、ぼくが最初の犠牲者ってわけじゃないんだね。愛美ちゃんも人が悪いや。だけど、その落第した先輩がたには少し同情がなくもないな。連中が嘘をついたって言うのは、少し気の毒だよ。彼らも彼らなりにきみが傷つかないように配慮したんじゃないかな」
「気の毒な女の趣味をけなさないために嘘をついてくれたってわけね。やさしいわね、哲くんは。同じ女を口説き落とそうとした宿敵も、落伍してしまえば戦友ってところね。でも、わたしにはやさしくしてくれなかったのね」・・・・・
重ならない世界を重ね合わせていくということ /てれまこし
https://note.com/telemachus/n/n5ed915a15b36
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