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2019年08月10日23:36

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ヒトとネコの話

イヌとならんで人間にもっとも親しい動物というとネコ(イエネコ)である。日本でもそうであるが、自分が今まで行ったどこの国にも人にすり寄ってくるネコがいて、ネコ好きの人間をすぐ嗅ぎ分ける。そんな人間がちょっとでも長く座っていようものなら、あの膝の上に丸くなってやろうと狙っておる。異国の人だろうが何だろうが、ネコにはあまり気にならんらしい。

だが、ヒトとネコが仲良くなったのはそう昔のことではないと思う。なぜかというに、ネコに関する伝承はひどく少ない。神話にも民話にも「ことわざ」にもネコに関するものはほとんど見られない。日本だけかと思っていたら、どうも世界的な話である。

体系的に調べたわけじゃないから断言はできんが、ネコが神さまかその使いになっているのは古代エジプトくらいのもので、他にはネコに関する神話は見当たらない。民話もネコが登場するのは比較的新しいものである。唯一自分が見つけたのはスマトラ島や北アフリカで雨乞いの呪術にネコが使われたという記録である。どちらも黒猫らしいから、黒雲を呼ぶのに目をつけられたらしい。ということは、ネコがいなかったころも黒い動物で代用できたわけで、そう古いことではなさそうだ。

日本でも、イヌだけじゃなくて、牛馬、キツネ、タヌキ、ウサギ、クマ、サル、ヘビ、カメ、果てはワニなんて日本にいたのかどうかわからん動物に関する伝承は多いが、ネコはほとんど登場しない。例外は「おむすびころりん」でネズミが「ネコの鳴き声、聞きたくない」という部分だが、これも昔からこの通りであったかどうか怪しい。

近世のネコ話も化け猫の類いが多くて、なぜか婆あに化けていることが多い。夜中に手ぬぐいを下げて出かけていくので、後をつけていくとキツネと一緒に踊っていたとか、どう見ても話好きの江戸人以前には遡らない。居候の年限をあらかじめ決めておくと、その日にいなくなるとか、ヒトの言葉を解するように感じていたらしい。でも、仲が良いというより、不気味に感じていたような節がある。イヌとちがって、ネコはどうも忠誠心が疑わしく二股も三股もかけていたりする。「猫かぶり」という言葉があるように裏表があるように見えるから、ヒトの方でも警戒したものらしい。

どこで読んだか忘れたが、ネコの原産地はリビア辺りらしいから、恐らく古代エジプトで家畜化されたものが、地中海や中東などに広がり、そこから世界に広がっていったのだろう。イヌなどとちがって、もう神話時代がとっくに終わった文明社会の中にネコは入っていったのである。たぶん、農業文明共通の敵であるネズミ退治を期待されて登用されたのではないかと思う。実際に、ネコはネズミをとるから餌をやらんでもよいと思っていた人も多いようだ。そうなると、なんだか今の会社と契約社員みたいな関係だ。

でも、そんな関係だけなら、こんなにネコと人間が仲良くなるようなことにもならなかったろうし、今みたいにネズミをとる必要がなくなればネコも不要になるはずだ。ネズミ捕りの代用品としてだけじゃなくて、本当にネコを可愛がった人たちがいたにちがいない。

『枕草子』や『源氏物語』などを読むと、お姫さまたちのペットとしてネコが飼われているから、平安時代にはすでに愛玩動物として日本にも入っている。ネコは家の中でかわいがられているのに、イヌの方は台所の外でひどい仕打ちを受けたりしている。イヌはすでにありふれたものになっているのが、ネコはまだ貴族のあいだで珍しがられるような存在であったのかもしれない。中国か朝鮮から貢ぎ物か土産物として入ってから、まだ間もないのかもしれない。やはり唐帝国やイスラム帝国の成立とシルクロードのもたらしたものであるのか。そうだとすると、国粋主義者も国際主義者もこのグローバリゼーションがもたらした新米はすっかり見のがしておる。

しかし、ネコの登場する民話が少ないところを見ると、これが一般の民衆にまで広がるにはしばらくかかったようである。船乗りがネコを船に乗せるという習慣があるから、ここからネコが全国に運ばれたのかもしれない。船のネズミを退治してくれるし、イヌとちがってトイレのしつけが容易だし、海上生活の無聊のいい慰めにもなる。陸に住む人たちよりも、まずネコと仲良くなったのは一生を多くを海の上で過ごした人たちではなかったろうか。そうして、砂漠原産のネコが魚好きになったのもこの経験からではないか。

日本ではオスの三毛猫が縁起がよいとされるようであるが、船に乗せるネコをどこかで殖やさないとならない。これは想像の域を出ないんであるが、港町などで船乗りたちを待つ女房や女房でない女たちなどがこの任務に当たったのではないだろうか。ネコを伴侶として、無聊な日々を過ごすような女たちが多くて、日々恨みごとを語って聞かせられたネコが化け猫となったのではなかったか、というところまで想像するだけはしてみた。ネコには迷惑な話であるが、今日でも淋しい年寄りなどがネコを慰めとして生きておる。

ネコが好きでない人にはどうでもよい話ではある。だが、われわれの伝承の大部分がずいぶん遠い昔からの行掛りであるのみならず、昔からずっと身近にいるようなネコのご先祖もまた船に乗って諸国を巡ってやってきたのであるとすると、ヒト好きな人にもなかなかバカにならん話でもある。ネコにもヒトにも興味のない人にはお気の毒でござったが、そんな人には自分などがどんな話をしたところで喜んでもらえそうもない。
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