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2019年08月06日22:05

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「鬨の声」型政治から脱け出せ

自分が「自己検閲」と言ったのは、半分は皮肉だが、もう半分は本気である。つまり、自分は、表現の自由を守りたい人が発言する前に自分の言うことをもう少し考えるべきだと言っているのである。

そうなると貴様は表現の不自由の応援団だな、ということになるのだが、自分の言いたいことはこういうことである。

自分は、ネット上における政治的コミュニケーションには致命的な欠陥があると思っていて、それが政治にも深刻な悪影響を及ぼしていると考えるようになっている。その一つが自分が「鬨(とき)の声」型コミュニケーションと呼ぶものである。鬨とは、戦場で仲間の士気を揚げたり、敵を威嚇したりすることである。

別に難しい話じゃない。わかりやすい例を挙げれば、「ファシズムを倒せ!」とツイートするとそれに賛同する人がイイネを押す。すると「売国奴をたたき出せ!」いうツイートに反対意見の人がイイネする。あとはどっちがイイネをたくさん集められるかという勝負だ。これで勝負がつかなければ、殴り合うだけである。

こんなコミュニケーションで必要とされるのは、敵味方を間違わない分別だけである。誰でも気軽に参加できるという意味では民主的である。しかし、逆から見ると、間違っても味方をののしったり、敵を応援したりするようなことだけは避けないとならない、ということでもある。だから、敵だか味方だか分らんようなメッセージは敬遠される。鬨の声は演説ではない。短かくて考える余地がないほど直截であればあるほどよい。それで、紋切り型の極論が他の議論を公的領域から追い払う。悪貨が良貨を駆逐する。

そうなると、これは一種の応援合戦である。味方の応援団だけを意識したコミュニケーションであって、始めから敵を説得できるなんてこれっぽちも考えていない。むしろ、悔しがらせて楽しもうという腹である。ちょっとでも相手の功を認めたり自分の非を認めようものなら笑われるだけだから、一歩も譲ることができないということになる。

しかし、真理が蹂躙されるときは、やはり声をあげるべきではないか。同じ応援団でも、真理の側に立つ側とそうではない側には、決定的な質的区別があるんでないか。そして真理は表現の自由なしでは守れないのではないか。それを一緒にするのは味噌もくそも同じだということに等しいじゃないか。

自分もそれに異論はない。だが、本当に真理を守りたいのであれば、自分が真理であると信じていることを一方的に宣言するだけではおぼつかない。いくら正しいことを言っていても、相手が耳を貸さなければ、何の役にも立たない。自分ひとりさえ正しいことを言っていれば、あとは野となれ山となれだ、というのは、あまりに政治をバカにしている。

なのに、他人より勉強して立派な知性や教養を身につけているはずの人びとまでが、応援団の片棒をかつぐだけなんである。紋切り型の憤りを示して、わからんのはわからん奴が悪いと澄ましておる。悪いが、どちらの鬨の声も、もう自分は聞き飽きた。こんなことでは、勝負はもうとっくについている。粗暴な力と衝突したとき、いつでも打ち砕かれるのは真理の方である。

いつの時代でも真理の味方は少数派であり、孤立していて、非力である。真理派の唯一の武器は知性である。仲間同士で気勢をあげることも不可欠だが、人の話もろくに聞かずに乱暴なことをする粗野な人々を暴力を用いずに抑えるのは容易ではない。あるだけの知力を動員せずにはいられない。皮肉や修辞などを駆使しなければならない。「バカ」と言われて「バカはおまえだ」とか「じゃあ、おまえはアホだ」という以上のことが言えなければならない。

それは要するに虚偽だ。相手に嘘をつき、また自分自身を騙すことだ。そういう人もいるかもしれんが、自分は嘘と虚偽は区別できると思っている。政治や教育においては、嘘は欠かせない方便である。その目ざすところが虚偽でないかぎり、嘘は真理へと通ずる道たりうる。正直すぎるのはかえってより高い目的にとって有害であることもある。

カール・シュミットというドイツの法学者は友と敵の区別こそが政治の本質として、この本質ができないリベラル政治を批判した。だが、自分に言わせれば、政治が可能なのはこの友と敵というカテゴリーにゆらぎがあるかぎりである。このゆらぎを認めることができるのが、知識人の強みである。このカテゴリーを思う存分ゆさぶってこそ、その存在意義が示せる。そのための学問であり修養である。鬨の声はもっと勇ましくていい声の人々に任せておいてよろしい。
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