５月22日のテレビで「若草物語」があった。映画版とともに、26日に土浦図書館がやっと開いたので、ウィキやオルコット年譜、小説の方とも照らし合わせる。
１枚目 若草物語の母を囲む四人姉妹
向かって右から、エイミ（エリザベス・テーラー）、次女ジョー（ジューン・アリソン）、長女メグ（ジャネット・リー）、ベス（マーガレット・オブライエン）。原作（つまり実際）ではエイミが四女で、ベスが三女だが、背丈の関係か映画ではベスを四女にしている。
２枚目 ルイザ・メイ・オルコット「愛の果ての物語」表紙絵
執筆は1866年とのことだが、出版されたのは1995年。実は私はブックオフで百円で買っていたのだが、結局読まないまま処分してしまった。
３枚目 若草物語シリーズを執筆したオーチャード・ハウス（ボストン） 以上、ネットから。
ルイザ・メイ・オルコット1832−1888。父エイモス・ブロンソンの病気見舞いに行って、父の死の２日後に死亡したとのこと。
若草物語1868、第２若草物語1869、第３は1871、第４は1886年。このうち第１と第２が自伝的な四人姉妹の物語で、第３と第４はジョーと夫となったベア教授による学校経営の物語。映画は第１と第２に基づいている。
１．物語の中での出版の経緯
若草物語の冒頭で四人の姉妹が練習する「魔女の呪い」（ジョー作の戯曲）は、「ポットボイラーズ（沸騰もの）」あるいは「血と雷の物語」などとしてヴィクトリア女王の時代に人気のあったジャンルとのこと。ルイザは「若草物語」執筆に移る直前まで、このジャンルで書いて収入の一部としていた。
第２で、ジョーは知人カーク夫人の経営している下宿屋に住み込みで働きながら作家修行をするためにニューヨークに行く。そこでジョーの（ルイザではない）運命の人ベア教授に出会うことになる。彼はポット・ボイラー小説の載った新聞を厳しく非難して燃やしてしまう。それはジョーの書いたものではなかったが、似たようなものを書いている自分を恥じて、後でこっそり燃やして、もう書かないと決心した。
この時、エイミはキャロル伯母のお供でヨーロッパ旅行中で（現実では、ルイザが富豪の娘の御付きとして１年間のヨーロッパ旅行をしている。「愛の果ての物語」はその旅行をモチーフとするもの）、ローリー（ローリーのモデルはその旅行中に出会った青年）もヨーロッパに向かっていたのだが、母からベスの病状が悪化したとの知らせが届いた。ジョーはベア教授の批判を胸にコンコードの実家に戻った。
ベスは父母と姉たちやローレンス氏に看取られてこの世を去った。その前にベスはジョーに、自分はもう治らないことを知っているし、怖くはないと打ち明けていた。
ジョーの詩（第２）
� 屬錣�ベス」要約 ５連よりなる。
憂いにある我が家を清めてくれた気高い姿。
病の中で苦痛を漏らさない忍従の姿。
他のあやまちを許していた。
私（ジョー）の心も澄んできて、新しい大望がわき神への信を与えらえれた。
天使となって自分を導いて欲しい。
ベスの死が近いことを知ったジョーが書いたもので、ベスが読んで、「何もできないまま世を去るのが残念だったが、自分がこんな風に役に立ったと思ってくれる人がいてうれしい」ともらす。1858年、エリザベス22歳での死。
�◆峅虻�裏にて」 四姉妹に関する詩
子供時代からの大事にしていた宝物を入れた四つの木箱の内容を歌ったもの。
これはニューヨークで忘れたままだったのを、感動したベア教授がボストンまで届けに来てくれた。同時にジョーに結婚を申し込む。
重要な場面であるが、映画版では、ジョーはこのベス（エリザベスは実際の早世した妹の名前）の死をもとに物語、「ベス、私のベス」を書き上げてベア教授のもとに送った。
エイミがヨーロッパ旅行から戻り、ブルック牧師と結婚していたメグに双子が生まれたお祝いの席に、ベア教授が出版された「ベス、私のベス」を届けに来た。と変わっている。しかし、趣旨は同じである。
現実との関係で言えば、第１が一般の少女たちだけでなく、ボストンのエマーソンを代表とする知識人たちにも高く評価されたことが反映されているのだと思う。
２．出版の経緯とされる事実関係（定説らしいもの）
1860年にオルコットはThe Atlantic Monthly誌に作品を書き始め、また1862から1863にかけて六週間ほど、ワシントンDCにある合衆国病院（ここでチフスに感染して健康体には戻らなかった）で看護婦を務めている。ここでの経験が「コモンウェルス」紙上に掲載された『病院スケッチ』（Hospital Sketches, 1863年,1869年再版）ウィキによる
The Atlantic is an American magazine and multi-platform publisher. It was founded in 1857 in Boston, Massachusetts, as The Atlantic Monthly,・・・文学と文化に関する総合雑誌。主題は奴隷制廃止、教育、政治問題。・・・ Its founders included フランシス・アンダーウッドand prominent writers ラルフ・ヴァルド・エマーソン、詩人のロングフェローなど・・・wikiによる
ルイザは南北戦争（1861.4−1865.4）の戦傷者のための病院（ワシントンD.C.）の看護婦に志願して、戦傷者から戦場の話を聞いて、それを実家に知らせた。それを興味深く読んだ父は近在の人々に回覧して評判をよび、ルイザの文才を認めたボストンの出版社が彼女に少女小説執筆を依頼したとのことである。その時、ルイザは「自分は少年のことならよく知っているので少年小説にしたい」と返事したのだが、再度、編集者から少女小説でとの依頼があって引き受けたとのことである。第１の出版（挿絵は妹のアビゲイル・メイ、つまりエイミ）は1868年。
３．以上を踏まえての検証 誰が「若草物語」を書かせたのか
� 嵒賊，離好吋奪繊廚鯑匹鵑製佝納劼諒埆玄圓�ルイザに少女小説を依頼
「病院のスケッチ」と第１「若草物語」出版の間に５年間が経過している。そして、「若草物語」がベストセラーとなるや、「病院のスケッチ」が再版された。
この経緯を見ると、「若草物語」の評判が「病院のスケッチ」の評価を高めたのであって、逆ではないと思わざるを得ない。
��第２「若草物語」にあるようにベア教授（のモデルとなった人物）だろうか？
ジョーが沸騰物を書いて出版社に持ち込んでいるのは、第１でローリーに明かしている。ローリーの反応は面白がったこと（当時15―16歳くらいの設定）と、その報酬が１ドルに過ぎないことに驚いたことだけ。むろん、第１冒頭のクリスマスで近所の子供たちに披露する「魔女の呪い」もジョーの書いた沸騰ものだった。
さらに、1966年に書いたままで出版されなかった「愛の果ての物語」も沸騰もの。長すぎるとの編集者の注文で書き直したが、結局生前には出版しなかった。第２によれば、ジョーの沸騰小説を、ニューヨークの下宿屋の女中さんは喜んで読んでいる様子だった。
ベア教授は、彼女が家庭教師（下宿屋経営のカーク夫人の娘）をした下宿屋の下宿人だった。このベア教授のモデルは、思想家のエマーソンとルイザの父親（エイモス・ブロンソン・オルコット）だとされている。異論のないところであるが、新しいタイプの学校経営は父親の夢だった。黒人の少年を入学させるなど、当時として急進的な理想主義のために一度破産しているのだが。小説の中ではジョーと結婚していて、一緒に学校を経営し教師として活動しているのである。父親の学校教育の夢を小説の中ではあるが一緒に実現した（第１ではジョーの将来の夢として語られる）。
問題は、第２若草のベア教授であって、ここではエマーソンが主として該当するのでないか。なぜなら、実際にエマーソンの娘の家庭教師になっているのであり、その娘エレンのために小説（Flower Fables, 1854年、ルイザ22歳）も書いている。
1858年７月（ルイザ26歳）から一家はコンコードのオーチャード・ハウスに引っ越した。現在記念館になっているが、母がもらった遺産（母の実家は金持ちだった）とエマーソンの援助で買ったものだと言う。この家でルイザは「若草物語」を執筆した。映画の舞台はこの屋敷をモデルにしているのだと思う（ただし、ベスは３月に死んだので、ここに住んでいたことはない）。
父の学校経営破綻を原因とする本当の貧乏時代は小屋のような家に住んだり、転々と移動したりしていたようで、ルイザはソローの森の家「ウォールデン」にも住んだことがあるとのこと。
そしてエマーソンが影響力を持っていた雑誌（一流の文化人の雑誌のようで、昔の岩波のようなものか）に、「愛と自己愛」1860年ルイザ28歳（評論だと思う）を書いている。
ただし、エマーソンが彼女の沸騰小説を批判したと言う事実は確認できない。そもそも、彼女は子供のころから沸騰ものが好きだったようだが、このジャンルだけでは小説家としての先がないことに気づいた（気づかされた）のだと思う。
で、その一流の文化人の雑誌に執筆させたのは、つまり別の分野に彼女を誘導したのはエマーソン以外に考えられないのである。
４．若草物語（Little Women）は広義の教訓小説である
この原題の由来は、よく知られているように父親の教育方針によるもの。
ルイザの生きた時代は、ヴィクトリア女王（1819生、在位1837―1901）の時代にかさなっている。この時代は特に厳しい児童教育だったらしく体罰が普通だった。しかし、父親は子供も大人として扱うべきだとして、自ら学んでいくように導く教育をしていたのだと思う。
この父と、それに共鳴していた母との対極にあるのがマーチ伯母で、娘たちを口やかましく叱責している。一方、母は、例えば結婚について相談された時には、「女でも仕事を持つのは良いことだが、良い人と結婚したいというのも良い。その時に、金持ちの男と結婚したいという思いは誰にもある。その上お互いに愛情があれば一番良いことだろうが、どちらか選ぶなら愛情だろう。そういう人に出会えなければ、無理に結婚せずとも好い」と諭している。実際、ルイザは結婚しなかったし、長女のアンナ（29歳で）と四女のアビゲイル・メイ（38歳で）の結婚は遅かった。
小説の中では、それぞれ、と言ってもベスは免れているのだが、自信のあることで失敗することで自ら学んでいくという設定になっている。例えば、美人が自慢のメグの場合は虚栄が過ぎて、となる。
したがって、若草物語は少女たち向けの教訓小説のながれにあることは間違いがないが、少女たちに熱狂的に迎えられたのは、クリスマスなのにプレゼントがない、貧乏は嫌だと言う不満からはじまり、積極的な行動で失敗するのがおかしいからだろう。むろん、消極的なことがいけないわけではないことがベスの設定である。
自分の自然のままでよいと言うことで、確かにキリスト教では神が作ったとされているので、元が悪いはずはないし、なまけ心もないはずだろう。むしろ人工的なしつけは止めるべきとするのが父親の考え方だった。トットちゃんのトモエ学園も同様の教育方針だったのではなかろうか。
５．著者の心理からの推理 なぜベア教授に沸騰小説を批判されたと設定したのか？
現実のベスの死（1858年、ルイザ26歳）の後のルイザの動きと第１、第２への利用を対比して箇条書きにすると。
�．椒好肇鵑覇�く。1860年(28歳) 「愛と自己愛」が「アトランティック・マンスリー」誌（エマーソンの推薦だと思う）に掲載される。
第２では、ニューヨークのカーク夫人の下宿屋。そこでベア教授と出会う。ジョーの書いているような沸騰小説を読んだベア教授がひどいものだと非難する。ジョーはもう書かないと決心する。
�⊇招慨埜酩悗箸覆襦米酲明鐐茵�30歳）。チフスに感染。
第１では父が従軍牧師となっていて、病気にかかり母が看病に向かう。
�Ｉ拗襪量爾良佞�添いで１年間のヨーロッパ旅行（33歳―34歳）。その時にポーランドで出会った青年がローリーのモデル。
第１の少女の時に、ローリーに沸騰小説を書いていると打ち明ける。
第２ではエイミがマーチ叔母のお供でヨーロッパ旅行。ジョーはベスの看護のために実家に戻る。そしてベスの死。
�ぅ茵璽蹈奪冦更圓鬟皀繊璽佞箸靴拭岼Δ硫未討諒�語」をあきらめる。子供雑誌「メリーズ・ミューゼアム」の編集者となる（オルコット年譜）。少女小説の依頼に応えて第１に取り組む（36歳）。
第２では、「ベス、私のベス」の出版
現実には、ベスの死から第１の出版まで10年間かかっているが、その間に起きた大きな事件は第１と第２に時間経過を短縮して取り込まれている。
第２若草は第１若草の大成功を受けて書かれているのだが、第２では詩「わがベス」とベア教授に褒められた詩「屋根裏にて」、映画版でベア教授の仲介で出版された「ベス、私のベス」が第１若草に該当する。むろんベスはマーチ一家のベスだから家族とともに描かれたのであるが、しかし何よりもジョーのベスとして描かれていた。ジョーがローリーとの結婚から身を引くのは、ベスがローリーを慕っていると誤解したからだった。
「愛と自己愛」は読んでいないが、題名から推察するに、「愛」は父の教育事業や母の慈善活動（アメリカで最初の民生委員だとのこと）で、「自己愛」は「若草物語」での四姉妹の行動と失敗を意味するような気がする。つまり、この評論を小説化したものが「若草物語」だと思われるのである。
★海風：まとめ
実際に書くまでに10年間かかっているのだが、直接的には子供雑誌の編集長になったことが依頼されるきっかけになったのだと思われる。
依頼されたときに、少年ならよく知っているので少年小説を書きたいと言ったというのは、話ができすぎ。そもそも、少年は第１ではローリーしか登場しない。経歴を見てもたくさん知っていたと言う根拠がない。
ただ、ベスの死とその後でのボストンでの暮らしだったとするのは10年の時間がかかりすぎのようではある。その点、南北戦争や１年間の海外旅行という大きなイベントがあったし、おとぎ話やポット・ボイラーではない通常の恋愛小説も書いていた。
その蓄積の上でのライフ・ワークとなった若草物語は、ベスのいる少女時代からの一家の暮らしを再現して見せる。屋根裏部屋の木箱の中の宝物を開けて日にさらす決意のもとで書かれたに違いない。失敗は許されないという緊張感をもって書いたのだろう。
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