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2019年12月14日10:18

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ファンタジーの中へ(117) 冨原眞弓「ムーミンの二つの顔」筑摩書房2005

 トーベ・ヤンソンは1914年ー2001年
1枚目 トーベ(向かって左)とトゥーリッキ(グラフィックデザイナー、生涯の愛人)
 伊勢志摩の夫婦岩を背景にして。
2枚目 ムーミンとミイ 今、NHKでやっているチコちゃんみたいな顔をしている。
3枚目 トーベ・ヤンソン画「神秘的な風景」 ムーミンの幻想的な一面がここに見える。   すべてネットから

 今まで、いくつかトーベ・ヤンソン関係の日記を書いてきたが、これで完結編としたい。一応はヤンソンの思想が分かったような気がするので。

 1.ムーミン受容の過程(ヨーロッパと日本)
 1945 「ムーミン」第1作「小さなトロールと大きな洪水」刊行
 1954 イギリス「イヴニング・ニューズ」で連載漫画「ムーミン」連載開始
 1958 父ヴィクトルの死去
 1964 日本で最初の翻訳本出版。「ムーミン谷の冬」偕成社
 1966 国際アンデルセン賞受賞
 1969 日本でテレビ・アニメの第一シリーズ「ムーミン」放映開始。
 1970 母シグネ(つまりムーミン・ママ)の死去
   「ムーミン谷の11月」刊行。児童小説シリーズ最終巻
 1971 招かれて来日。その後世界旅行。

 ヨーロッパでは、ムーミンが有名になったのは、小説ではなくイギリスの新聞でムーミン・コミックスが連載されてからである。
 日本では児童文学で評判になり、テレビのアニメ「ムーミン」で世界的に不動のものになり、以後、「フランダースの犬」や「アルプスの少女ハイジ」などが続いた。

 ただ、アメリカのコミックスは、シュルツ「ピーナッツ」があり、その牙城に「ムーミン」は入ることができなかった。
 ★海風:ヨーロッパでは、最初の出版後10年たって、イギリスでコミックが連載されてから人気に火が付いたとのことである。
 それに対して、最初の出版後20年後、ヨーロッパでのコミック人気の後で児童小説として出版されて、広く受け入れられ、この人気がテレビアニメで決定的となり、さらに世界のアニメとなった。
 先ず言えることは、小説のムーミンには難解なところがあると言うことだろう。無邪気な妖精たちの暮らしや遊びだけではなく、暗くて孤独な感じのするものもある。
 テレビアニメの場合は、主題歌(作詞・井上ひさし)「ねえ、ムーミン。こっち向いて。恥ずかしがらないで。」では、気の弱いムーミンを誘っている設定になっている。
少なくとも、アニメでは暗い感じはなかったと思う。

 背景に暗いところがあるのは、ロシア革命や第二次大戦で引き起こされたフィンランドの冬戦争の影響らしい(本書での言及はなかった)。ムーミン谷の平和はいつ崩れるか分からないのである。

 2.ムーミンママの存在感
 著者トーベ・ヤンソンの両親は、父は彫刻家、母は画家の芸術家一家であったが、母がスウェーデン人であり、フィンランドの第二公用語はスウェーデン語なので、一家の会話はスウェーデン語であり、「ムーミン」もスウェーデン語で書かれていたのである。スェーデン語はゲルマン語系で、フィンランド語は別系統で全く違うとのこと。
 トーベの住むフィンランドは人口も少なく、もともと出版物も個人で買うよりも図書館用が多いのだが、それでも日本産のテレビアニメの力でムーミンのキャラクター・グッズが巷にあふれることになった。

 父は名のある彫刻家だったが、たくさん仕事があるわけではなく、一家の生活費は母親の挿絵の注文で稼いでいた。それで母の方は芸術かとしての仕事を残すことはできなかったのである。

 一家には芸術家仲間が自由に出入りして、食べたり飲んだりしていくボヘミアン的であり、まさに「ムーミン」のような家庭だった。というか、「ムーミン」谷はヤンソン家であり、ムーミン・ママはトーベの母その人だったとのことである。

 ★海風:トーベの父は著名な彫刻家であり、友人たちも大勢やって来る賑やかな家庭なのだが、それを経済的に支えて、出入りする芸術家たちを温かくもてなすのは、すべて母の仕事だった。その姿がムーミンママに写されているとのことで、ムーミン谷とはママを中心に動いているのである。実際、ママの死と共にムーミンシリーズは終わることになる。

 ★海風:まとめ
 ムーミンには不気味なキャラクターも含めて多彩なキャラクターが登場する。その中で一番人気はスナフキンとのことだが、彼は確か、秋にムーミン谷にやって来て、春になるとどこかに行ってしまう身勝手な人物だった。とっつきにくい孤独な思想家といったところで、付き合って楽しい人ではない。
 作者は、ヤンソン家に集まって来た人物を子どもの頃から観察していて、おもしろそうな人物を取り上げてムーミン谷に配置していったのだと思う。だから、彼らが協力して何かをするようなストーリーはなかった気がする。あくまでも作者の関心を引くのは個性なのである。
 確かに今でいう「共生」の思想が背景にあるに違いない。独自の個性たちは互いに干渉することはない。その中心にムーミンママがいることで、「共生」の社会が成り立っているのである。
 この作者の思想は、今のマイノリティ優先のようなリベラル的共生の思想とはだいぶ違っているようだ。

 作者は子供向けに、動植物も含めた多様な個性の存在を見せた。それによって、彼らが成人した時にその記憶が刷り込まれていることを願っていたのだと思う。思想を実現するためには行動する必要があると思いがちな人間にとっては、このムーミンシリーズが何のために存在しているのか、読んでも分からないわけである。
 ということを、私はこの感想文を書きながら思い至ったわけである。江藤淳なら「作家は行動する」。このトーベ・ヤンソンも行動したと言うに違いない。


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