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2019年12月14日17:40
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カラヴァッジョ展/名古屋市立美術館〜その2
さて、昨日のレポートで、カラヴァッジョの作品総数については諸説があると書いた。
この数については、近年少しずつ増える方向にあるのは間違いない。
1つには、新発見による増がある。
カラヴァッジョ作品が新たに発見されたとなれば、大きなニュースとなる。
例えば、…
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但し、発見されたとニュースが報じても、直ちにカラヴァッジョ作品数が増える訳ではない。
研究者が様々に調査を尽くし、間違いなく真筆だとして、初めてカラヴァッジョ作品リストに加えられる。これには長い時間がかかる場合が多い。
もう1つは、新発見されたものでなく、絵の存在は元々知られていたが、他の画家によるものと扱われていたり、作者不明となっていたり、諸説の中にはカラヴァッジョの可能性があると主張する研究家がいても、それが大勢に認められていなかった場合等、それらの中から、調査結果、彼の真筆だと認められる場合がある。
但し、これがなかなかすんなりいかないのは、研究者の意見が一致しない事がままあるからだ。
本展でいうと、《聖アガピトゥスの殉教》や《歯を抜く人》がそれに当たると思う。
センシティヴな問題であるから、詳細は図録を読んで頂きたいが、前者では、M･マリーニやM･カルヴェージが1989〜1990年にカラヴァッジョ作と主張、2000年にS･カウザは17世紀ナポリ派のバッティステッロ･カラッチョロ(本展�蕎呂鉾爐虜酩覆�2点展示)に帰属すると主張している。マリーニとカルヴェージも、これが誰を描いた絵なのかという観点では意見が異なっている。
後者は、1970年の「フィレンツェの諸ギャラリーにおけるカラヴァッジョとカラヴァッジェスキ」展以降議論が活発になり、結果、M･マリーニ,M･パチェッリ,M･チノッティ等が否定、M･グレゴーリ,M･ボナ･カステッロッティ,K･クリスチャンセン等がカラヴァッジョに帰属するとしている。
カラヴァッジョが風俗画を描いていたのは初期の1590年代迄だ。
例えば、2016年の国立西洋美術館展で展示された《女占い師》(1597/ローマ･カピトリーノ美術館)や《トカゲに噛まれる少年》(1596-97/フィレンツェ･ロベルト･ロンギ美術史財団)等がそれに当たる。
その後彼のテーマはほぼ完璧に宗教画に移行している。が、この《歯を抜く人》は1608〜10年に制作された作品と見られているのであるから、極めて例外的な事だと言わざるを得ない。
余談だが《トカゲに噛まれる少年》と《歯を抜く人》は、鑑賞者の痛みに訴えるという点で似通う点がある。しかし、後者の闇の勝った画風は、初期でなく、ナポリ逃亡後の作品と考えなければならない。
これらから分かるように、この2点は、必ずしもカラヴァッジョ作として大勢がまとまっている作品とは言えないのである。
ただ、そういう作品であっても、積極的にカラヴァッジョ作品として展示する事は可能だ。本展の責任監修者はローマ保存修復高等研究所所長のルイージ･フィカッチだが、彼が最終的には判断したのだろう。
カラヴァッジョ作品の殆どは、展覧会以外でもネットや書物等で見る事が可能だが、この2点は今迄一度もお目にかかった事がない。カラヴァッジョ作品として定着しきれていないからだろう。
私も、本展でこれを初めて観た。私の個人的感想等どうでもいいが、初めて観て、どうも違和感を持ったというのが正直なところだ。
最後にもう1つ、《ゴリアテの首を持つダビデ》(1609〜10/ボルゲーゼ)について書いておきたい事がある。
少年ダビデが持つ巨人ゴリアテの首は、カラヴァッジョの自画像だとの説は、以前からよく聞いた。
カラヴァッジョは自身の間歇的性格による暴力行為から死刑判決迄受け、ローマから逃亡した。逃亡先でも名画を多々残したが、彼の心はローマをいつも向いていた。ボルゲーゼ枢機卿を頼りにして恩赦を得ようとしたが、うまく事は運ばなかった。
彼は、自身の性格と行為を深く悔いたろう。
ゴリアテの首を自分の顔にしたのは、そんな経緯があったからに違いない。
しかし、この絵の解釈をそれで終わらせてはならない。
下は、今年11/8の中日新聞朝刊の記事である。
その中にカラヴァッジョ研究家 宮下規久朗の炯眼を示す部分があるので、是非読んで頂きたい。
ゴリアテの首もカラヴァッジョ自身だが、実は、彼の首を持つ少年ダビデも若かった頃の自分だ、そう宮下は書いている。
ダビデの顔は、ゴリアテをやっつけて勝利に喜んでいるだろうか。
この複雑な表情を読み取る事が、この絵の解釈のキモになるだろう。
〈参考資料〉
図録『カラヴァッジョ展』
執筆 ルイージ･フィカッチ,小佐野重利,ミーナ･グレコ―リ他
発行 2019年8月、北海道新聞社
図録『カラヴァッジョ展』
執筆 ロッセラ･ヴォドレ,川瀬佑介他
発行 2016年3月、国立西洋美術館,NHK,読売新聞社
月刊「芸術新潮」2016年3月号
特集『人殺し画家が描く"神の光" カラヴァッジョをつかまえろ！』
執筆/談 ロッセラ･ヴォドレ,石鍋真澄,宮下規久郎他
発行 2016年2月、新潮社
名古屋市立美術館その他の展覧会
「名品コレクション展��(後期)」
・会期 10/26〜12/15
この数については、近年少しずつ増える方向にあるのは間違いない。
1つには、新発見による増がある。
カラヴァッジョ作品が新たに発見されたとなれば、大きなニュースとなる。
例えば、…
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但し、発見されたとニュースが報じても、直ちにカラヴァッジョ作品数が増える訳ではない。
研究者が様々に調査を尽くし、間違いなく真筆だとして、初めてカラヴァッジョ作品リストに加えられる。これには長い時間がかかる場合が多い。
もう1つは、新発見されたものでなく、絵の存在は元々知られていたが、他の画家によるものと扱われていたり、作者不明となっていたり、諸説の中にはカラヴァッジョの可能性があると主張する研究家がいても、それが大勢に認められていなかった場合等、それらの中から、調査結果、彼の真筆だと認められる場合がある。
但し、これがなかなかすんなりいかないのは、研究者の意見が一致しない事がままあるからだ。
本展でいうと、《聖アガピトゥスの殉教》や《歯を抜く人》がそれに当たると思う。
センシティヴな問題であるから、詳細は図録を読んで頂きたいが、前者では、M･マリーニやM･カルヴェージが1989〜1990年にカラヴァッジョ作と主張、2000年にS･カウザは17世紀ナポリ派のバッティステッロ･カラッチョロ(本展�蕎呂鉾爐虜酩覆�2点展示)に帰属すると主張している。マリーニとカルヴェージも、これが誰を描いた絵なのかという観点では意見が異なっている。
後者は、1970年の「フィレンツェの諸ギャラリーにおけるカラヴァッジョとカラヴァッジェスキ」展以降議論が活発になり、結果、M･マリーニ,M･パチェッリ,M･チノッティ等が否定、M･グレゴーリ,M･ボナ･カステッロッティ,K･クリスチャンセン等がカラヴァッジョに帰属するとしている。
カラヴァッジョが風俗画を描いていたのは初期の1590年代迄だ。
例えば、2016年の国立西洋美術館展で展示された《女占い師》(1597/ローマ･カピトリーノ美術館)や《トカゲに噛まれる少年》(1596-97/フィレンツェ･ロベルト･ロンギ美術史財団)等がそれに当たる。
その後彼のテーマはほぼ完璧に宗教画に移行している。が、この《歯を抜く人》は1608〜10年に制作された作品と見られているのであるから、極めて例外的な事だと言わざるを得ない。
余談だが《トカゲに噛まれる少年》と《歯を抜く人》は、鑑賞者の痛みに訴えるという点で似通う点がある。しかし、後者の闇の勝った画風は、初期でなく、ナポリ逃亡後の作品と考えなければならない。
これらから分かるように、この2点は、必ずしもカラヴァッジョ作として大勢がまとまっている作品とは言えないのである。
ただ、そういう作品であっても、積極的にカラヴァッジョ作品として展示する事は可能だ。本展の責任監修者はローマ保存修復高等研究所所長のルイージ･フィカッチだが、彼が最終的には判断したのだろう。
カラヴァッジョ作品の殆どは、展覧会以外でもネットや書物等で見る事が可能だが、この2点は今迄一度もお目にかかった事がない。カラヴァッジョ作品として定着しきれていないからだろう。
私も、本展でこれを初めて観た。私の個人的感想等どうでもいいが、初めて観て、どうも違和感を持ったというのが正直なところだ。
最後にもう1つ、《ゴリアテの首を持つダビデ》(1609〜10/ボルゲーゼ)について書いておきたい事がある。
少年ダビデが持つ巨人ゴリアテの首は、カラヴァッジョの自画像だとの説は、以前からよく聞いた。
カラヴァッジョは自身の間歇的性格による暴力行為から死刑判決迄受け、ローマから逃亡した。逃亡先でも名画を多々残したが、彼の心はローマをいつも向いていた。ボルゲーゼ枢機卿を頼りにして恩赦を得ようとしたが、うまく事は運ばなかった。
彼は、自身の性格と行為を深く悔いたろう。
ゴリアテの首を自分の顔にしたのは、そんな経緯があったからに違いない。
しかし、この絵の解釈をそれで終わらせてはならない。
下は、今年11/8の中日新聞朝刊の記事である。
その中にカラヴァッジョ研究家 宮下規久朗の炯眼を示す部分があるので、是非読んで頂きたい。
ゴリアテの首もカラヴァッジョ自身だが、実は、彼の首を持つ少年ダビデも若かった頃の自分だ、そう宮下は書いている。
ダビデの顔は、ゴリアテをやっつけて勝利に喜んでいるだろうか。
この複雑な表情を読み取る事が、この絵の解釈のキモになるだろう。
〈参考資料〉
図録『カラヴァッジョ展』
執筆 ルイージ･フィカッチ,小佐野重利,ミーナ･グレコ―リ他
発行 2019年8月、北海道新聞社
図録『カラヴァッジョ展』
執筆 ロッセラ･ヴォドレ,川瀬佑介他
発行 2016年3月、国立西洋美術館,NHK,読売新聞社
月刊「芸術新潮」2016年3月号
特集『人殺し画家が描く"神の光" カラヴァッジョをつかまえろ！』
執筆/談 ロッセラ･ヴォドレ,石鍋真澄,宮下規久郎他
発行 2016年2月、新潮社
名古屋市立美術館その他の展覧会
「名品コレクション展��(後期)」
・会期 10/26〜12/15
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