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2015年01月05日01:39

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【演劇】2014年の演劇10本

映画はいわゆるベストテンの形で順位を付けているが、演劇は映画以上にフォーマットが様々で、同じ土俵で比較することが難しいため、最近は順番は付けず10本を選ぶだけにしている。ただし今回は抜きんでた作品があるので、それについては後述。以下は見た順番。

 
オーストラ・マコンドー『さらば箱船』吉祥寺シアター 2/7
珍しいキノコ舞踊団『金色時間、フェスティバルの最中。』
  世田谷パブリックシアター 3/28
新八会『父と暮らせば』新宿無何有 4/26・8/9
一見劇団『お玉の亭主』浅草木馬館 4/26
河合祥一郎演出『から騒ぎ』21 komcee MMホール 4/28
文学座研修科発表会『天保十二年のシェイクスピア』文学座アトリエ 5/2
FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』吉祥寺シアター 6/13・6/18・6/22
FUKAIPRODUCE羽衣『よるべナイター』青山円形劇場 11/2
ソ・ヒョンソク演出『From the Sea』品川区各地 11/3
さいたまゴールドシアター『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』
  にしすがも創造舎 11/24

 
 
一応10本見た順番に並べたが、この年に関しては、明確なベストとそれに続く作品があるので、それについて書いていく。

 
私にとって2014年最高の演劇作品は、F/Tで上演されたソ・ヒョンソク演出『From the Sea』。これしかありえない。俳優と参加者が1対1で町を巡るツアー形式の作品。ただし参加者は、色つきのゴーグルによって視覚を制限され、しかも移動中の大部分は完全に目隠しされる。視覚を奪われたまま、車や自転車が行き交う町を通ることで聴覚・嗅覚・触覚が異常なほど鋭敏になり、普段とは全く違う形で世界を認識する体験。腕を取って案内し、マイクとイヤホンを通じて話しかけてくる俳優との不思議な交流。失われた土地の記憶を巡る旅は、やがて参加者自身の記憶をさかのぼる旅になっていく、したがって誰一人として同じ『From the Sea』を体験することは出来ない。演劇が持つ一期一会性を極限まで押し進めたとも言えるパフォーマンス。ここに「参加者」はいても「観客」はいない。演出家と俳優が先導者になるものの、どんな物語を作り何を語るかは、最終的には参加者次第なのだ。何から何までが斬新で、演劇というものの枠組みを大きく広げた作品。今年最も希有な体験だった。「2014年の10本」を選びはしたが、それ以上に『From the Sea』は「2014年の1本」なのだ。

『From the Sea』は明らかに別格の作品だが、それ以外の、もう少し普通の演劇作品で特に良かったのはFUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』、新八会『父と暮らせば』、文学座研修科発表会『天保十二年のシェイクスピア』の3本。それ以外の6本と、この1本+3本では明らかな差がある。つまり上記の1本+3本が、2014年のベスト作品ということになる。

FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』は一応再演作品だが、幾つかのエピソードが付け加わり、3時間の大作にスケールアップ。初演よりも格段に良くなった。他の羽衣作品に比べ、これこそはと言う名曲が無いのが残念だが、この甘酸っぱい魅力には抗いようがない。無上の楽しさに溢れた祭りと、祭りが終わった後のやり切れない寂しさ…羽衣の作品中でもベスト3に入る大傑作だ。元々初日と楽日のチケットを買っていたが、我慢出来ず急遽途中でもう1回見に行ってしまった。

親八会『父と暮せば』はリーディング作品だが、元々出演者二人だけの対話劇なので、ほとんど不足は感じなかった。実はこの作品、演劇も映画も見たことがなく戯曲も読んだことがなかったので、これが『父と暮せば』初体験になる。名作だとは聞いていたが、これほどまでに力のある戯曲だったとは。その重く鋭い言葉一つ一つを肉声として響かせた、渋谷はるか&辻親八の表現力も見事。よけいな演出や身体表現をしない純粋なリーディングとしては、最高の出来と言っていいだろう。

文学座研修科発表会『天保十二年のシェイクスピア』。作品自体は前に別の劇団で見たことがあるが、こちらの方が遥かに面白い。以前見た劇団は、海千山千のベテラン俳優たちが揃っていた分、個人芸のお披露目のようになっていて、それはそれで面白いのだが、今回の上演を見て、『天保十二年のシェイクスピア』とはこういう作品だったのかと初めて納得出来た。演技の熟練度では劣っても、研究生たちの若々しさと勢いはそれを遥かに上回るもので、普通の公演では味わえないキラキラした魅力に溢れている。第53期研修科の発表会は『美しきものの伝説』と『終わりよければすべてよし』も見たが、どちらも面白かった。正直なところ、文学座の本公演よりも面白い。こんな面白いものを無料で見せてしまっていいのかと言うほどだ。文学座に限らず、どこの研究生の発表会も一期一会のキラキラした魅力に溢れていて、見始めると本当に病みつきになる。
この第53期研修科の中でも特にお気に入りが3人いる。男性が2人、女性が1人。ぜひ座員になって欲しいと願っているが、仮にダメだったとしても、彼らなら別の場所で必ず花を咲かせることだろう。いずれにせよ大部分の研修生は座員にはなれず、数か月後には新天地を求めていくことになる。芝居を続けるのであれ、別の道を歩むのであれ、彼ら全員に幸せな未来が訪れることを願わずにはいられない。

 
その他の作品についても簡単に。

オーストラ・マコンドー『さらば箱船』は、これまでに見た中で最も寺山修司らしい作品。多少垢抜けてはいるが、実際の天井桟敷もきっとこんな感じだったのだろうと思う。オーストラ・マコンドーは、この1本しか見ていないので、どんな劇団なのかいまだによく分からないのだが、次の作品も見る事は間違い無い。

珍しいキノコ舞踊団は何度も見ているが、『金色時間、フェスティバルの最中。』はこれまでで一番楽しい作品だった。いつものことながら選曲がオヤジ殺し過ぎる。ジミ・ヘンドリックスの「ワン・レイニー・ウィッシュ」でソロを踊る茶木真由美の姿が今も忘れられない。

2014年は大衆演劇というものを初めて見た年としても記録される。一見劇団を3回、章劇を1回見た。一見劇団は最初の『芸者の里』と言う芝居は最悪だったが、その後見た『森の石松 閻魔堂の最期』『お玉の亭主』、そして章劇の『裸千両』は非常に面白かった。中でもほっぺたの筋肉が痛くなるほど笑ったのが一見劇団の『お玉の亭主』。馬鹿馬鹿しいと言えば馬鹿馬鹿しい、ドリフターズ的な笑いではあるが、自分が大衆演劇に求めるものを見事に具現化してくれたとも言えるので、とりあえずこの作品を選んだ。ただし大衆演劇は、芝居と舞踊ショーがセットになっているので、本当は芝居だけでなく舞踊ショーの評価も合わせるべきなのかも。舞踊ショーでは、最悪だった『芸者の里』が上演された1月5日の公演が一番良かった。もっとも、大衆演劇の役者たちは、こんな形での評価やベストテンなど歯牙にもかけないところで毎日を生きているのだろうけれど。

河合祥一郎演出『から騒ぎ』は、日本のシェイクスピア上演史に残るものだろう。凝った演出もセットも排し、若い役者たちのスピーディーな演技と台詞回しだけで、最高に面白いシェイクスピア劇を作り上げてしまった。シンプル・イズ・ベスト。余計なものをそぎ落とし、全てを精緻にチューンアップするだけで、シェイクスピア劇はこんなにも面白くなるものなのか。

FUKAIPRODUCE羽衣『よるべナイター』は、『耳のトンネル』には及ばないものの、やはり羽衣らしい魅力に溢れている。ただし名曲「果物夜曲」は、この芝居中よりも、ライヴで聞いた方がずっと感動的だ。

さいたまゴールドシアター『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』。ネクストシアターの方は何度か見ているが、ゴールドシアターを見るのは初めて。老人たちの演技については、正直それほど優れたものや存在感のあるものとは言えないのだが、蜷川幸雄の視覚的な演出の見事さと清水邦夫の戯曲の面白さが際だっていた。

 
あらためてまとめると、2014年はまず『From the Sea』の年。そしてFUKAIPRODUCE羽衣、文学座研修科、大衆演劇、そしてOn7たちの年だった…と言うことになるだろうか。「On7たち」と言うのは、On7そのものを5回見ていることに加え、メンバーの女優たちの誰かが出ている作品を他に10回も見ているからだ。渋谷はるかの出ている新八会『父と暮らせば』もその一つだが、それ以外では安藤瞳・木暮智美・尾身美詞が出た青年座『見よ、飛行機の高く飛べるを』が特に良かった。


なお2014年の観賞本数は、通算94本。複数回見たものを除くと88本になる(会場が違う『マハーバーラタ』『扉 Ready~Freddie~Go!!』と3か月半ぶりの再演となる『父と暮せば』は除く)。

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