僕が初めてここに来たのは1970年代の終わりころだったと思う。
白山というところは何となく行きにくく、いい店だと知りながら通うということもなかったのです。
先日訪れたのは、実は近くの東洋大学で、デモがあると聞いてモノ好きですが見物に行ったのです。ア、そういえばこの駅は、と思い出して坂の中腹にある場所を探した。複雑に道が入り組んでて、ごちゃごちゃお店があって、終戦直後当たりの雰囲気も感じた。そんなオーラがある場所。路地の路地をぐるぐる回って暗闇の向こうを目指して行きつくみたいな。もうないかなと思って、歩いたけど、でもすぐ近くだなと直感もあった。
路地の入口から、狭い階段があってその先に「だんだん」という店の看板が見えて、その手前にちゃんと「映画館」はあった。ほんとにあんのかな、という思いも残してね。
魔法使いみたいな帽子をかぶったおじいさんといっても失礼でもなさそうな男性が、骨とう品みたいなレジの機械の前にいて「うるさくてすみませんね」とあいさつした。大きな音で音楽が鳴るのはむしろ歓迎だけど違ってて、レジのがっちゃんと引っ張り下ろすハンドルが調子悪く、バールも使って体重をかけて、よっこらしょい、と大汗かいてるのです。
ツカミというなら、つかまれちゃったうれしい気持ち。店内は古びてるけど、きれいです。
ご主人は大昔の映画会社でカメラマンをやってて、撮影に使った照明器具なんかもぶら下がってる。またメカ好きらしく、当然のように真空管のでかいのがむき出しで“刺さった”自家製アンプ。ラックのてっぺんにはオシログラフ計があって、画面に電波の山形みたいのが、上がったり下がったり。その時はCDだったけど、音は素晴らしい。クリアだけど冷たくない、というか。
すべてが作為ではなく、そのままに古びてる。
「今日は猫いなんですか?」と聞くと「ああ、今外に出てるんです」。
ご主人、こんにゃろという感じで、レジのハンドルを下ろそうとするけどなかなか動かない。チーン、がちゃんと、窓の数字がスロットマシーンのように動いて、お金の入った引き出しが出るはずが、そうならない。75年前に作られたものらしい。バールがこっちの飛んできそう。
初めてここに行ったときは、当時近くにあった名画座?で、ユーリ・ノルシュテインの「話の話」を当時仲良かった彼女とみて、感動した思い出がありますの。
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