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2020年02月11日15:22

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【バレエ】日本バレエ協会「海賊」(9日ソワレ)

都民芸術フェスティバル協賛イベントのひとつで、同協会は1970年以降、毎年参加している。主要な配役以外はオーディションなので当たり外れがあることから、気になるダンサーが参加したり、今回のように珍しい演目の時だけ足を運んでいる。

今年は橋本くん以外贔屓の踊り手はいなかったので、迷っているうちにチケットの発売日を忘れてしまい、後日希望席の残っている回があれば買うと電話したら、怪訝な声をされた。(笑)

ここが「海賊」を上演するのは1981年以来2度目。前回は小牧版だったが、今回はヤレメンコ新演出・振付版。ヤレメンコさんはシェフチェンコの元ダンサーで、同団の芸監も務めたことがある。彼が「海賊」を手がけたのは10年くらい前らしいから、ご本人による改訂版というわけだ。

2幕構成、約90分で、グーセフ版をベースにバイロンの原作を意識した演出がなされているから、出だしはホームズ版に似ている。プロローグとエピローグを追加、著名なトロワをラストに持ってきたり、ランケデムを1幕で始末してしまうところが他の版との顕著な違い。

あらすじをもう少し詳しく記すと、プロローグはロンドンの街。舞台中央に机があり、バイロンが執筆に頭を悩ませている。一応書斎ということらしいが、背景画は街並みだし、周囲を多くの人が歩いている。そのへんはおおらかなロシア的(ウクライナ的?)演出ということにしておこう。(笑)

バイロンはコンラッド役の人で、彼が気を引かれる女性(往来を恋人と歩いている)がメドーラ役の人。

暗転・薄幕が降り、嵐の中を進む海賊船(難破はしない)。再び暗転ののち幕が上がると、そこは賑やかな市場。ランケデムが奴隷の売買を仕切っており、パシャや海賊もやってきて、パシャがメドーラたちを買い上げて去っていく(その前にギュリナーラとランケデムのPDDもある)。悔しがるコンラッド。ちなみにコンラッドとメドーラの関係は「一目惚れ」。(笑)

メドーラを買い取れなかったコンラッドは部下たちに命じて掠奪を開始、目的を果たすと引き上げていくが、その前にパシャたちはいったん完全に袖にはけてしまうので、海賊たちが腹いせに暴れているようにしか見えないのが難点。逃げる海賊をトルコ軍が追いかけて1幕1場終了。

2場は海賊たちの根拠地。コンラッドとメドーラのPDDから始まり、ビルバントたちが他の奴隷少女たちも連れてくる。その後の鉄砲の踊り(宴会の余興)、メドーラの懇願、海賊たちの不満、コンラッドとビルバントの一騎打ちという流れは同じ。

コンラッドとメドーラがいったん袖にはけると、入れ替わるようにランケデムが姿を見せる(1場の最後には、睡眠薬の瓶を弄ぶ彼の姿も描かれる)。舞台の上手には寝台があり、その脇には花を生けた花瓶。それを使ったデモンストレーションや、コンラッドが眠り込んでしまうまでの流れも同じだが、いろいろ省かれているのでとにかく展開が早い。

ビルバントがメドーラに怪我をさせられる場面がないと思ったら、用の済んだランケデムはあっさり殺されてしまい、その死体からビルバントの裏切りを知るという演出。コンラッドたちがビルバントを追うところで1幕終了。

2幕は、すっかり馴染んだギュリナーラや他の奴隷たちと、パシャが戯れているところから始まる。そこにビルバントがメドーラを連れて現れ、買わないか? と提案、パシャに断る理由はなく、それどころかオダリスクの舞で歓迎するほど。ただしその演出がいまひとつわかりにくい。

続いて巡礼の一団(コンラッドたち)がやってきて、彼らもメドーラや奴隷たちの踊りでもてなされる。踊りが終わると正体を現すコンラッドたち。衛兵との乱戦の中、ビルバントはトルコ軍側に加勢するも後ろからアリに切りつけられて負傷、そのまま海賊たちに連れ去られてしまう。

場面は再び海賊たちの根拠地。引っ立てられたビルバントの処分は他の海賊たちに一任され、凱旋の宴として著名なトロワが踊られる。それが終わると、海賊たちは次の獲物を求めて再び嵐の海へと船出する。

場面はロンドンの街に変わり、机に突っ伏していたバイロンは夢の物語を反芻する。そしてプロローグで気になった女性に花束をプレゼントすると、よし、これで行くぞ! とばかりに羽ペンとノートを振りかざして袖に走り去る。

舞台が始まる前、ヤレメンコ夫妻と岡本協会長による10分ほどのプレトークがあり、岡本さんはこのヤレメンコ版をとてもスピーディと語っていたが、出来の良いボヤルチコフ版や初心者にも優しい熊版と比べると、あらすじを追っているようにしか思えなかった。というのもヤレメンコさんが想定している観客は、省いている部分は脳内で補えるバレエを見慣れている人々だからで、今回は置いて行かれてしまった観客もそこそこいたことだろう。

オケはジャパン・バレエ・オーケストラ。4年前から活動を開始したオケだが、独立した楽団ではなく、バレエ公演に合わせて予定の空いている奏者と契約を結ぶタスクフォースオケ。よってダンサー同様、こちらも当たり外れが予想されるが、今回は当たりだったようで、先日のシアターオケよりもバランスの良い演奏をしてくれた。

指揮者はバクランさん。彼もウクライナの人だから、ヤレメンコさんたちとの相性も良かったのかもしれない。耳に馴染む快適な指揮ぶりだった。ちなみに彼は2015年以降、毎年ここで指揮を執っている。

メドーラは上野さん。他のダンサーと比べると全般に踊り慣れ感が違い、中でもトロワの時は余裕すら感じられたが、すでにピークは過ぎてしまったようだ。最盛期に比べると、細かなところの処理が甘くなっている。

演技も疑問符のつくところがあって、例えばコンラッドと初めてアイコンタクトを取った場面では、彼の姿を見かけたとたん、知り合いと出会ったかのように突然嬉しそうににっこり笑う。1幕冒頭はホームズ版のようだったから、最初は一目惚れパターンなのだろうと思って観ていたが、彼女の演技を見て、パリオペ初演版のように2人はすでに知り合い? と誤解してしまった。

残念だった上野さんに対し、コンラッドの中家さんには、この日の舞台で最も良い印象を抱いた。大柄で押しのあるところは海賊の首領にぴったりだし、踊り出せばキレもあって跳躍も高く、ポージングも美しい。新国を観に行く時は彼の出演する日にしようと思ったほどだ。

ギュリナーラの奥田さんは、他の人と比べれば目立っており、全てが良いとまでは言わないが、勢いのある動きのところは上野さんよりキレがあった。

また登場場面が少なすぎて断定はできないが、ビルバントと一緒に踊る海賊女性を担当した佐藤優美さんが少し気になった。

その他のダンサーたちのことは、「白鳥」の感想ではさんざんダメ出しをしたが、なんだかんだ言ってもやはりKの連中は上手いなあ、と思いながら眺めていた。

と書くと、いや、「海賊」の子たちも良かったよ? と言う人はいると思うし、実際観ていてそれなりに楽しめた。その理由を一言で記すなら、「ロシア・バレエの魔力」。(笑)

今回の公演には、振付けたヤレメンコさんと共に、振付補佐として奥さんのベレツカヤさんも来日している。彼女もまたシェフチェンコの元ダンサーで、現在は技術の伝承者として後輩たちを指導しており、チェビキナさん、ゴリャコーワさん、マツァークさんらが彼女の弟子。

今回の参加者たち、個々の力量はそれほどでもないが、群舞に至るまで、頭の角度から手脚の上げ下ろし、背中のそらし具合など、動きの基本がロシア(ウクライナ)式なのだ。

フランス古流の踊りを基本としつつ、より美しく、より優雅に、より見栄えが良くなるよう進化改良を続けたのが、帝政ロシア/ソ連のバレエ技術で、その基本(の基本)を彼ら彼女らはヤレメンコ夫妻から伝授されたのだろう。

どのくらいの期間、教えてもらえたのかはわからないが、それほど長い時間があったとも思えないから、ダンサーたちの本気度がうかがえる。

我が国にもRADのようなバレエの教育システムがあり、ロシアやウクライナから優秀な教師を招いていたら、日本人の勤勉さを加味すると、すでに世界からお呼びのかかるバレエ団も存在していたことだろう。

そこにいちばん近いのがやはりKバレエだが、今回のような舞台を観てしまうと、「(Kには)プリンシパルを教えられる教師がいない」という言葉の持つ意味が大きくのし掛かってくる。
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