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2021年08月20日20:32

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125-2終 詩・短編を書いてみた(第1966回)

「少年と私」

【あらすじ】
1992年の夏
とある田舎の空は
どこまでも青く…。
どこまでも大きく…。
どこまでも綺麗で…。
どこまでも冷たかった。

―――――

初夏
この時期は多くの学生が部活に青春を感じ
勉強に自分の未来をかけたり
恋に心を揺さぶられたりする季節。

高校生というのはそう言うものだと思う。

でも私は…
私は何をしているのだろうか…。

そんな憂鬱を感じながら
学校からの帰り道を歩いていると。
車1台分の幅しかないこの道を
黒いワゴン車が猛スピードで通り過ぎた。

(危ないなぁ…。えっと。ナンバーは「○○な3542」か…)

私は気にしないでおこうかと思ったが
あの車が妙に気になった。
その理由は直感。
でも
私の直感は嫌なモノほど良く当たる。

私はあの車を追いかけた。
しかし当然
車はすぐに見失い。
残っていた轍を頼りに追いかけたが
それも途中で消えていて
道の途中で
追うことが出来なくなった。

何故か
少し悔しさが込み上げる。

(でも、私の勘違いだったから良かった)

その時
ガサゴソと音が鳴った。
道の脇に生えている深い茂みの中からだ。

(何かいるの…?)

私は恐る恐るその茂みを覗く。
すると
黒い袋があり
その中に入っていた何かが動いた。

(動物とか、かな…?)

私は袋を慎重に開ける。
そこに入っていたのは
気を失っている幼稚園児くらいの男の子だった。

『な、なんで…』

予想外の状況に動揺してしまう。

(と、とにかく保護しないと…)

私はその袋から子供を取り出し
腕に抱えて家へ帰った。

ガラガラ…。

スライド式のゆっくりとドアを開ける。

『今日も居ないよね…?』

物音は聞こえない。
それもそのはず。
私の両親は共働きで基本家に居らず
帰ってこないことも当たり前たがら。

誰も居ないことを確認した私は
子供を自分の部屋へ運び
自分のベッドにその子を寝かせた。

見たところ
呼吸はしているし
大きなケガはしていないようだし
気を失っているだけみたい。

『良かった。でも、これからどうしようか…』

人の為にと
子供を家に連れてきたが…。
この状況は明らかに異常だ。
最悪の場合
私が誘拐犯だと思われても仕方がない。

(とにかく、この子が目を覚ましたら警察に行こう)

私はそう決めた。

するとその時。
子供が目を覚ました。

私は『大丈夫?』『痛みとか無い?』と声を掛ける。
しかし
その子は私の顔を見た瞬間
私に強い拒否反応を示した。

それは「嫌だ」というよりも
「恐怖」という言葉が合っているかもしれない。

その子は『ごめんなさい』や『もっと頑張ります』と
頭を手で覆うようにして
許しを乞うように呟いていた。

(この子に一体何が…。とにかく落ち着かせよう)

『だ、大丈夫だよ。私は悪い人じゃないよぉ。アナタを助けたヒーローだよぉ』

しかし
彼は『ごめんなさい』と言うのを止めてくれない。
そりゃそうだ
「悪い人ではない」と言う人間は怪しい。
私もそう言われたら疑う。

(どうしたら…)

その時
お腹が鳴る音が聞こえた。

自分のかと思ったが
どうやら彼のお腹からみたい。

私は思わず『子供、なんだな』と思って笑ってしまった。

『ご飯、食べる?』

そう言うと
彼は一瞬止まる。

そして――

『…いらない』
『でも、お腹は鳴ったよ?』
『…僕じゃない』
『そうなの?』
『そう…』
『じゃあ、これから昼ごはんを食べようと思っていたけど…。いらないってことかな?』
『…いらない』

(強情だなぁ…)

『分かった。じゃあ、私一人で食べてくるね』
『……』

私は一人でキッチンへ向かう。
すると
そのキッチンの上に置き手紙が。


それは親からの手紙で
その手紙にはこう書かれていた。

「突然、なんだけど。私達、長期の仕事が入っちゃって、1週間ほど留守にするから家をお願いね。
お金を置いていくので。そこから出前などでご飯を食べてください。愛する母より」

私は手紙をテーブルに置き
ため息を吐いた。

それは「良かった」という安堵と
「またか」という落胆。

『まぁ、これで、しばらくはバレないわね』

私はそのお金を服のポケットに入れた後
棚からカップ麺を取り出し
それにお湯を注ぐ。

今日はいつもより大きめのタイプにした。

私はお湯を注いだそのカップ麺を持って
自分の部屋へ入る。

彼は体育座りをしながら震えていた。

私は床にカップ麺を置いて。
彼の側で食べ始め
麺をわざと大きくすすりながら
彼を横目で見る。

(あ、見てる…)

次第に彼と目が合う回数が増えていき
私は彼に『食べる?』と言うと
彼は
何度か戸惑いながらも黙ったまま
そのカップ麺を受け取り
余っていた麺とスープを
あっという間に食べ干した。

相当お腹が減っていたのだろう。

『美味しかった?』『…うん』
『それは良かった。で――』

私は本題を切り出す。

『君のことを教えてくれない?』

そう言うと
彼は若干警戒しながらだが
色々と話してくれた……。

彼の名前は「スズキダイチ」小学2年生。
幼稚園児かと思ったが違ったみたい。

『ダイチ君ね。他に何か分かることある?。例えば、住んでいた所とか…』

ダイチ君は首を横に振る。

全く思い出せないという。

(まだ子供だから仕方なくても。これじゃあ…)


『とにかく明日、交番行こうか』

そう言うと
ダイチ君は頷いた…。

翌日
私達は近くの交番に向かった。

『すみませ〜ん』

しかし
警察官の返答はなく。
テーブルに「緊急事態のため不在」と書かれた紙が置かれていた。

(まぁ、田舎だから、たいした用事でもないだろう)

私はしばらく待ってみることにした。
しかし
いつまで経っても警察官は帰ってこなかった。

ダイチ君が暇そうにしているのを見て私は
「待ってても仕方ないか…」と思い
一旦家へ帰ることにした。

自宅へ帰り
私は暇潰しにリビングでテレビの電源をつける。
すると
テレビニュースでは
都市部の地下鉄で科学薬物テロが起きて
現場は大変なことになっていると報道されていた。
人員も各所から集められているらしいく
この辺りも人員要請の対象らしい。

(あ、だから居なかったのか…)

私はダイチ君に視線を移す。
彼は食い入るようにその報道を見ていた。

『どうしたの?』

しかし
ダイチ君は何も言わない。

(刺激が強いから動揺しているのだろうか…?)

私はテレビを消そうとリモコンを持つ。

その時
ダイチ君は『ここ知っている』と言った。

『えっ…。知ってるの?』
『うん。お母さんと買い物に来たもん』
『そうなんだ…。(だったら、ここに行けば何か分かるかも…。でも――)』

状況は最悪だ。
今ここに行っても
警察官にはまともに相手にはされないだろう。

ただ
このまま家にいても
何も起きないだろう。
それどころか
私の親に見つかれば
もっと面倒なことになる予感がする。


私は悩んだ結果…

お金はそれなりにある事と
動かないと何も変わらない!という想いから
ダイチ君を連れて
行ってみることにした。

ダイチ君に行くかどうかを尋ねると
彼は『行く』と言ってくれた。

翌日
私達は日帰りするくらいの荷物をリュックに入れて背負い
電車を乗り継いで都市部へ向かった。

その道中。
ダイチ君を見ると
ほんの僅かに震えていた。
まだ彼の中で
取り除けない何かがあるのだろうか。

(必ず親のもとへ送り届けるからね)

私は心に決めたのだった…。

数時間後
都市部へ到着した私達は
街の状況に驚いた。

1日が経っても現場は慌ただしく動いていて
規制線が張られている。

いまだに状況が落ち着かないみたいだ。

私はダイチ君に尋ねる。

『ねぇ、ダイチ君。ここはテレビで見た場所だけど。何か思い出すことある?』
ダイチ君は少し見回して首を横に振る。

『そっか…』

(じゃあ、どうしようかな…。このまま、ここにいるわけにもいかないし…)

私は何か情報は得られないかと
彼と一緒に周辺を歩いてみることにした。

歩き始めて十数分後。
ダイチ君は
あるビルとビルの間の不気味な路地の前で足を止めた。

『どうしたの?』
『ここ知ってる…』
『知ってるって…。ただの路地だよ。ここ…』
『でも、通ったことある気がする』

私は路地の奥に視線を向ける。

(見るからに、人が通るような雰囲気ではないけど…)

私はもう一度ダイチ君を見る。
この路地を真っ直ぐに視線を向けているダイチ君を見て
勇気を出して進むことにした。

路地はジメジメとしていて湿気臭い。
ゴミも置いてあるし
ネズミくらいしか通らない道だろう。

私はダイチ君に注意を向けながら
さらに奥へと進む。
すると
私達の視線の先に建物の裏口のような
怪しげな鉄で出来たドアが現れた。

ダイチ君はそのドアを知っているという。

私はそのドアを音をたてないように慎重に開ける。

ドアの先は地下へと続く階段だった。

私は生唾を1回呑み込み
ダイチ君の手を握りながら足を前へ動かす。

一歩一歩前へ進み。
その度に足音が階段に響いた。

階段を降りると。
一直線の通路と
その通路に沿うように幾つかのドアがあった。
私は一番近かったドアを慎重に開けた。

その部屋には
まるで研究施設のような設備や資材があって
ここで何かを研究していたようだ。

(なんで、こんな所で…?。しかも、ダイチ君はどうして、ここを知っているの…)

幸いここには人がいないので
少し調べられるみたいだが…。

その時。
ダイチ君が『頭が痛い』と言って
私の袖を引っ張る。

ここには何かあると思っているだけど。
ダイチ君がこれだと
一度外に出た方がいいのかもしれない。
私は外に出ようと踵を返す。

しかしその時
私達が入ってきたドアが開く音が鳴った。

(誰かが来た!!)

私はすぐにダイチ君の手を掴み
通路の奥へと進む。

(どこかに隠れる場所は…)

私は通路の一番奥のドアを開ける。
その部屋は真っ暗だったが
ここしかないと思い
私はダイチ君と一緒に部屋に隠れた。

それから少しして
誰かが通路を歩く音が聞こえてきた。

ソイツはどこかの部屋に入り
大きな音をたてながら
何かをしている。

(物とかをを探しているのだろうか?。とにかく、物音はたてないようにしないと…)

数分後。
物音が止みソイツが部屋から出て
地上へ向かう階段を登り始めた。

(良かった…)

しかしその時
ダイチ君が頭痛の痛みで声が出てしまった。


私は咄嗟にダイチ君の口元を押さえた。
しかし
ソイツの足音が止まり
ゆっくりと
こっちへ向かって足音が近づいてくる。

私はダイチ君の口元を押さえながら
真っ暗な部屋の中を手探りで移動し
部屋の奥へ。
そして
隠れそうな場所を手探りで探し
そこに隠れた。

カツ…カツ…。

私達がいるドアの前で足音が止まる。
そして
ゆっくりとドアが開いた。

ギィ…。

開いたドアの隙間から
通路の明かりで部屋が照らされる。

私は目を瞑り
見つからないように神様に願った。

ソイツはしばらく部屋を覗いた後
部屋の中へゆっくりと入ってきた。

一歩一歩こちらへ近づいてくる。

(もうダメだ…)

私はダイチ君の手を強く握った

その時
私の足元からネズミが現れ
ソイツの方へ――。

『うわぁ!?。な、何だよ…。ネズミか…。驚かせやがって…』

ソイツは自分を落ち着かせる息を吐いた後
逃げるように階段を登り施設を出てっていった。

私は
ソイツの開けた地上に出るドアが閉まるまで息を潜め
その音を確認してから安堵の息を吐いた。

『痛い…』

ダイチ君の声に
私はダイチ君を押さえていた手を離す。

『だ、大丈夫?』
『まだ痛い…』
『ゴメンね。もう外に出ようか?』

そうダイチ君に聞くと
彼は首を横に振った。

ダイチ君は無意識に
何かを感じているのかもしれない。

私はまずここを調べてみることにした。

(そもそも、ここは何の部屋なんだろう…?)

私は暗闇の中
電源のスイッチを探す。
すると
指先にスイッチらしき固いものが――。

『これかな…?』

私はそれを押す。
すると
部屋が明るくなり
見えた光景に私は驚いた。

檻に閉じ込められたままの動物の死骸や
手術道具などが無造作に積まれており
部屋の中心には
手術台のような台が置かれていた。

『ここって…』

その時
この光景を見たダイチ君が
頭を抱えて苦しみだした。

『どうしたの!?』
『ぼ、僕…。ここで…。怖いことをさせられてた…』
『怖いこと…?』

ダイチ君は朧気に思い出したことを話してくれた。

簡単に説明するとこうだ。

数ヵ月前
ダイチ君が下校中に突然
黒い袋を被せられて誘拐され
この研究施設に連れてこられた。

施設には
ダイチ君と同じくらいの子供達がいて。
彼らと一緒に
開発中だったという科学兵器の被験者として
多くの実験を受けさせられていたという。
苦痛による苦痛で
少しずつ仲間は減り
最後まで残ったのは
何故かダイチ君だけだった。

それを犯行グループは気味悪がったのか。
はたまた化学兵器が完成は分からないが。
突然
彼の口に布をあてがわれ
その布に染み込んだ科学薬品で気絶し
気がついたら
私のベッドで目を覚ましていたという。

記憶を失った状態で…。


私はその話を聞いて
『ここには、まだ何かある』とも思ってはいるが
ダイチ君を気にかけると
これ以上ここにいるのは
止めた方が良いのかもしれないと思い
私は地上に出ようとした。

その時

カツ…カツ…。

また誰かの階段を降りていく音が聞こえてきた。
私は部屋の電気を消して
またダイチ君と一緒に隠れる。

ソイツは階段を降りると
慎重にだが
手当たり次第に部屋のドアを開けていく。
部屋を見回っているようだ。

そして
幾つかの部屋を漁った後
私達が隠れる部屋のドアを開けた。

その人は
所持していたと思われる
手持ちライトで部屋を照らし
私達の方へ近づいてくる。

(近づかないで…)

しかし
その願いは届かず
私達はそのライトに照らされてしまった。

(終わった…)

しかし
ソイツは私達を見つけると――。

『ここで何をしているんだ!?』と言って驚き
無線機で誰かと会話を始めた。

『研究施設で子供を発見。至急応援を願う』
『了解』

彼をよく見ると
警察官の格好をしていた。

私は安心感で全身の力が抜ける…。

(良かった…。でも、何でこんな所に警察官が?)

この警察官に話を聞くと。
この周辺に怪しい人が出入りしたという通報があり
調査したところ
この研究施設を見つけたらしい。

それから
私達は警察に保護され
取り調べ室のような部屋で
私達は彼らにあの研究施設にいた事情を伝えた。

ダイチ君を草むらで拾ったこと…。
ダイチ君があの研究施設を知っていたことなど…。

話を伝えると。
警察は慌てて『詳しく話を聞きたい』と言って
様々な調査資料を私達に見せてくれた。
そこには
犯人グループが孤児や誘拐した子供達を使って実験を繰り返した事や
ダイチ君がその一人だということ等が書かれていた。

そして
その警察官は
男性が写った複数の写真をダイチ君に見せて
この男性らを見たことがあるかどうかを尋ねていく。
すると
ダイチ君は数人を指差した。

その指差した男達は
警察が今回の事件の主犯格と思っていた男達だった。

警察はその証言と証拠を元に
事前に目星をつけていた
犯人グループのアジトに突入して彼らを逮捕。

取調室で犯人達に様々な証拠を突きつけた。
逃げられないと観念した犯人のほとんどが自供して
事件とダイチ君のこれまでが分かった。

ダイチ君が小学校の下校中。
突然
犯人グループに誘拐され
他の子供達と一緒に
あの実験施設で生物兵器テロの実験台にされていた。

同じ仲間が次々と実験で命を亡くしていく中で
何故か
ダイチ君だけは生き続けた。

犯人グループは
その理由が分からなかったらしい。

それから時間が経って
生物兵器は完成し
ダイチ君はお役御免となったことで
あの場所に捨てられたという。


もし
私が車を怪しいと思わなければ…。
追いかけなければ…。
彼を拾わなければ…。

そう思うと
怖い結果になっていただろうし
私は自分で自分を褒めたいと思う。


それからして取り調べが終わり
後日
ダイチ君の健康診断が行われた。
すると何故
人体実験を受けて彼だけが生き残れたのか
その理由が分かったという。

彼の血液には
度重なる人体実験によって
生物兵器に対する抗体が生まれていたのだ。

これは驚くべき事実で
培養や加工などを上手く活用すれば
ワクチンに利用できるらしい。

ダイチ君にその事実を説明すると
彼は『皆の為なら…』と言って
血液を採血させてくれた。

その後
研究員達がその血液から抗体ワクチンを作り
被害者にワクチンを投入。

時間はかかったが
被害者らは少しずつ容態が良くなっていった。

こうして
事件は解決の一途を辿っていった。

しかし私には
まだ問題が一つ残っている。

それはダイチ君のことだ。
彼の親を探さなければ
ここまで頑張ってきた意味がない。

私は警察にダイチ君への捜索願いが出ていないかを尋ねた。
調べてみると
ダイチ君の捜索願いはあったという。

私はすぐに連絡を取ってほしいとお願いした。
しかし
捜索願いに記載してある電話番号に連絡しても
不在アナウンスしか流れず
全く繋がらなかった。

記載されている電話番号が
変わっている可能性は低いだろう。
捜索願いを出したのだから
自ら連絡が取れないようにするのはおかしいと思う。

私は警察官に無理を言って
捜索願いに記載されている住所を聞いた。
だがしかし当然
それは個人情報だからと断られた。

でも私はダイチ君の為だと
何度もしつこくお願いして。
根負けしたのか。
警察官は私が伝えた言ったことの口止めを条件に
私に住所を教えてくれた。

私はその警察官に感謝を伝え
私達はすぐにその住所の場所へ向かった。

電車を乗り継ぎ
景色が移り変わっていく中
私は疲れて眠っているダイチ君に
『もうすぐ親に会えるよ』と呟いた。

それから時間が経ち…。
最寄り駅に到着した私達は
ダイチ君の家へ向かい
民家を見つけた。

しかし
人の気配を感じない。

私はインターホンを押す。

ピーンポン…。

インターホンは生きているみたいだが
家の中からは反応がない。

私はもう一度押す。

ピーンポン…。

やはり反応がない。

(留守なのかな…?)

その時――。

『どちら様ですか…?』

お婆ちゃんが話しかけてきた。

『あ、すみません…。この家の人に尋ねたいことがありまして――』
『お婆ちゃん!』

ダイチ君が
そのお婆ちゃんに抱きついた。

お婆ちゃんは『ダイチちゃん、じゃないか…!』と言って驚いた後
彼をを強く抱きしめた。

私はそのお婆ちゃんに尋ねる。

『もしかして…。ダイチ君のお婆ちゃんですか?』
『…そうです。アナタは?』
『私は――』

私はこれまでのことを説明した。
その途中でお婆ちゃんは――。

『分かりました。外はなんですから、家の中で話を聞かせてもらってもいいですか?』と言って
家の中へ入れてくれた。

家を見ると
ごく普通の一軒家だが
お婆ちゃんが生活するには
不揃いな数の家具が多く置いてあった。

私は単刀直入に聞いた。

『すみません。ダイチ君の親は…?』
『……。二人は…』

お婆ちゃんは固く締めた口を緩めて話し始めた…。

ダイチ君のお母さんとお父さんは
彼が誘拐されてから毎日のように捜していた。
しかし事件当日。
ダイチ君を捜していた二人は
たまたま事件現場付近に歩いてしまい
あの生物兵器によって亡くなってしまったという。

(じゃあ、あのニュースの時には…)

私は心が締め付けられる想いがした。

様々な困難を乗り越えた先が
こんな結末だと思うと…。

(ダイチ君には、どう説明すれば…)

私はダイチ君を見る。

ダイチ君は悲しい目をしていた。
その目の意味は推測でしか分からないが
きっと
理解しているのかもしれない。
もう親はいないと…

それから私は
ダイチ君のお婆ちゃんに彼を引き渡し
また会う約束をして自分の家へ帰ったのだった……。


家に帰ると
仕事が早く終わってお母さんが帰ってきていた。

『おかえり』

私は涙を貯めてお母さんに抱きついた。

『どうしたの…?』と戸惑う母親に
私は何も言うことなく
ただ涙を流したのだった……。


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