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2019年06月27日11:17

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追悼 宮沢明子

ピアニストの宮沢明子が4月23日に脳梗塞で死去したことを
ニュースで知った。

宮沢明子というと、自分にとっては、なんといっても
70年代における、録音技師、菅野沖彦とのコンビによる、
一連の録音に尽きるという感じがする。
菅野氏の録音の良さと、宮沢明子の荒っぽいが情熱的な演奏からは
欧米の巨匠や若手の録音とは違った世界を実感した。

このコンビで、ワーナーパイオニアや、トリオ、オーディオラボ
などに、多くの録音を行った。

それらを聴いて、宮沢のピアノの思い切りの良さに驚いたものだ。
ミスも多いし(ひょっとして、一発録りか?)、
ぶっ叩いたような割れたフォルテ、
さらには楽譜の読み間違えもある。
しかし、うまくいった時の演奏は、優等生的な若手や、
老大家にはない面白さに満ちていた。

特に「プレイズ・ベーゼンドルファー・インペリアル」
(ベートーヴェン「告別」、バッハ「イタリア協奏曲」など)と
「バロックアルバム」
(スカルラッティ「ソナタ集」、クープランなど)
の2枚は、名演で、いまでも時々聴くほどである。

それにしても、よくこんな個性的な演奏が
世に出たものだと思う。
当時でも、宮沢の演奏に否定的な評論家は多かったし
(評論家ではないが、五味康祐もボロカスに貶していた)
いまだったら、ミスの多さと楽譜の読み違いで
間違いなくアウトだろう。

宮沢自身、80年代以降は、
ミスのない、落ち着いたスタイルに変わっていったが
それが成長なのかは大いに疑問であった。
東芝に移籍してからのCDや、その頃聴いたコンサートなど
今までのやんちゃ娘がうそのように
おとなしく、リズムが重く、個性に乏しい演奏に
大いに戸惑った。
東芝からCDの新譜も出なくなり、宮沢もベルギーへ移住して
その後の活躍は地味なものであった。

彼女のCDを聴くと、いつも
技術が上手くなる、とか、ミスがなくなることが
必ずしも向上につながらないということを考える。
ミスはないが、丁寧すぎて面白くない後年の録音よりも、
ミスはあっても情熱的な若い頃の録音のほうが
はるかに価値があると思うのだ。

菅野沖彦(糖尿とうつ病だったらしい)が
録音をやめて、オーディオ評論家になってからは
ろくな噂を聞かなかったのに対し
晩年の宮沢明子は数枚のCDを出したくらいで
特に日本のピアノ界とは関わりを持たなかった。
非常に賢明な選択だったと思う。

ご冥福をお祈りします。
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