風に翻る、軍旗と、軍勢の放つ暴威が押し迫る。
対するは、唯一騎。
いや、一人と呼ぶべきか。
嘲る笑う、男共に、慈悲を乞えと蔑む目。
彼らの獲物は、唯一騎、一人に向けられる。
そうその命は風前の灯火でしかない。
取り囲まれ、進退窮まる彼。
一笑に付して、咆哮す。
地を震わし、天を揺るがす咆哮に、たじろぐ軍勢をよそに、彼は万の軍勢に飛び込む。
その刃が、敵を切り裂き、敵の獲物が彼を捉える。
しかし、彼は一向にひるまず刃一つで包囲網を悔い破り、残った敵を殺し続ける。
どれ程の血が流れただろう。
どれ程の血を流したのだろう。
骨はくだけ、手は崩れ落ち、その足は歩を刻めぬ程になろうとも彼の殺戮の宴は終わらない。
既に刃は折れて、敵はもう彼を人とは捉えられず、逃げ惑う。
大地がおびたたしい死でうめつくされた時、彼と呼ばれた魂は消え果てた。
汝、それなるか?
我、かくありなん。
天より声が聞こえ。
地より返答が響く。
何故、彼はこのようにり果てたのか?
余人知る者無し。
余人知る者無し!
ただ、彼だけがわかればよい。
彼だけが満たされればよい。
ある哀れなる、狂える戦士の死。
万の軍勢は今目前にあり。
魂を震わせよ。
血肉は全て贄とせよ、全てを狂気に委ねて、刃と化せ。
汝、死を呼ぶもの也。
生を捨てて、勝利を得よ。
勝利の先にあるは、栄光ではない。
誇るに足る死也。
いざ、戦場へ。
死して、宮殿に名を刻め。
忘るるな、先を見てはならぬ。
今を見て、その命を投げ捨てよ。
汝、刃也。
全てに等しく、死を与うる、刃也。
対価は命にして、誇り也。
そして地を震わし、天を揺らす咆哮が鳴り響いた。
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