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2014年12月11日20:19

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【ブックレビュー】下半身の論理学

下半身の論理学
三浦俊彦著
青土社


書店で見かけた時、下半身の「倫」理学かと思って手に取ったら、「論」理学でしたw


倫理学でしたらありきたりの話なのでしょうけど、論理学で下半身を語るってどうやるんだろうと思って読んでみましたw


本書のテーマは、ズバリ、「処女厨」です


処女厨 「自分以外の男を知らない女性と結婚する事。それを目標とした思想」(処女厨wikiより)


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 辻褄合わせを徹底させること―論理的整合性を探ること―によって、一見して白黒つけようのないさまざまな<下半身トピック>を、互いの隠れた関連を解きほぐしながらできるかぎり解明していこう。これが本書のモチーフである。さまざまなトピックとはいえ、本気で解明を志せば自ずと<ひとつの重要トピック>を軸とした体系的考察になるのだが。
 体系的考察。
 そう、体系的考察に最も適した方法として、「分析哲学」の流儀を採用する。
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このように高らかに宣言して(笑)、身近で下世話なトピックを、物凄く真面目に分析していきます


分析哲学はとても広くて多様なので定義するのは不可能なのですが、観念論的(真理が存在する等)を排して、分析・明晰さ・論述、といった特徴を持ち、現代哲学の主流となっている方法です


本書の記述上の特徴として、論点先取、循環論法、作業仮説、対立仮説、ミーム、自然主義の誤謬、といった学術用語が太字になっているのと同時に、実存的処女厨、啓蒙的処女厨、といった造語も同じ太字になっていて、何度も吹いてしまいましたw



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 ジェンダーは、男女それぞれの魅力だけでなく、人格的価値をも決定する。男らしさを豊富に持つ男は人格的に優れており、女らしさを豊富に備えた女は人格的に優れている。これは異論があるかもしれないが、徳倫理学などが前提とする暗黙の常識である(徳倫理学とは、「善」の根拠として「行為の結果」を重んずる功利主義や、「義務感に従う」という動機を重んずる義務論に対して、「人徳・人柄」を重んずる立場)。そして、人格的に優れた人を伴侶として求めるのは当然のことだろう。相補的完成がなされるかどうかとは関わりなく、人格的に優れた相手といっしょになることは自分の利益につながるのであるから。
(中略)
 羞恥心、思慮深さ、プライドなどは女の人格を評価するための重要な属性だが、最も重要なのは「規範遵守」という性質だろう。これは独占欲説のところで見た「従順さ」と同じものである。社会規範を守るという性質は、「他人と争わずに仲良くやっていく能力」に直結する。妊娠・授乳期間という、他者の助けを要するコストを宿命的に背負う女は、むやみに反逆するようでは生き抜けない。他人と争う可能性の高い女より、隣近所に悪評を立てられないよう規範を守って安全を確保し、子どもを無事育て上げられそうな女の方を、男が高く評価するのは当然のことである。したがって、「簡単にセックスするな」という慣習的規範道徳を従順に守り続けた処女は、男にとって、信頼できる伴侶となるのである。処女厨の完成はこの限りで正しいのだ。
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こんな調子で、処女厨や反処女厨がどんな思想を持っているか、その根拠は何か、論理的に正しいのか、生物学的や社会学的に分析したらどうなのか、というありとあらゆる分析を、これでもか!と、大真面目に延々と続けています


本書全体が、分析哲学に馴染みのない人に対して身近なテーマでその方法を紹介しているとも言えますし、分析哲学の壮大なパロディとも取れます


私がいつも疑問を抱いている、生物学の理論を現代社会に適用できるかどうかについて、こんな主張もありました


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 都市文明が成立して環境が激変した後も処女厨が有利かどうかは、自明なことではない。人間の遺伝的傾向は、何万年も前までの「安定した環境」に適応した結果の産物であり、急速に形作られた現代の都市環境は生物学的人間にとって全く不慣れな、新しい環境だからである。氷河期までの年月において有利だった行動や思考傾向が、地球史上類例のない都市文明環境においても同じく有利なままである、などという根拠はどこにもない。
 生態学的な都市環境の特殊さを考えると、処女厨がありに二一世紀の社会で有利だとしてもそれは偶然だろう。適応とは関係ないだろう。そこで、実際に処女厨が現代社会において有利なのかどうかを改めて調べなければならない。そして「現代社会でも処女厨の方が有利である」かどうかは、「現代社会において有利」とは何を意味するかによる。
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本書において結論はそれほど(見方によっては全くw)重要ではありませんので、ネタバレしてしまいます


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 女が男に対して対等以上の関係を保とうとしたら、「男の性的欲求を堂々と受けて立つ」ことによってではなく、「そう簡単にはやらせない」ことによってだろう。第1章でふれた用語(中略)を使えば、「性的拡大均衡戦略」ではなく「性的縮小均衡戦略」が女の正しい戦略である。これはごく当たり前の論理だ。(後略)
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セックスは女の武器とよく言われます


著者が分析哲学によって辿り着いた結論は、女の武器を使うのではなく、「使わない」戦略、もし使うのであれば結婚が確実になってから、でした


うーん、男としては、あまり嬉しくありませんね(>_<)


ともあれ、面白く読みながら、分析哲学の方法を目の当たりにできるというお得な一冊です



※本書は処女・非処女についての考察がほとんど全てなので書評もこのようになりましたが、私はその議論に参加したくありませんので、「処女はどうだこうだ・非処女はどうだこうだ」というコメントはお断りします

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