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日記一覧

 三文ポルノ小説は手抜き小説ではない。粗雑な小説でもない。ただ、簡素な小説なのだ。それは喩えるなら弁当だ。それも駅弁なのだ。手はかけている。しかし、それを小さな箱に入れ、冷めても美味しく食べられる状態にするために駅弁も簡素かされている。幕の

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夜明けの晩、その2
2019年10月30日14:54

 仕事をしていても、酔いどれて新宿の街を彷徨っていても、深夜は寂しく人恋しく、肩寄せ合う人ばかり探している。ところが、朝が近づくと、突然、他人が煩わしくなる。仕事をしているときでさえ、共に働く人たちの存在が煩わしくなり、一人になりたくなるの

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 普通の小説には伏線というものがある。これがあることで読み手は、最後までワクワクと心踊らされながら小説を読み進められるのである。しかし、三文ポルノ小説には、そんな余裕はない。伏線など煩わしいだけなのだ。しかし、焼き肉料理にさえ野菜はあるもの

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夜明けの晩、その1
2019年10月28日02:25

 朝はいつだっていい加減にやって来た。飲みつぶれていたって、会社の方向に無意味に歩きはじめていたって、二十四時間の喫茶店で飲みたくもない不味いコーヒーを飲んでいたって、朝はいつだって、突然に、唐突に、からかうように、バカにしたようにしてやっ

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 三文ポルノ小説で大事なのは、何よりも速度。表現力とか、文体とか、描写力とか、その他、普通に小説に必要ないっさいのことよりも、大事なのが速度、とにかく、速度。よく小説のテンポと言うが、テンポではない。テンポなどどうでもいいのだ。何よりも速度

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三文ポルノ礼賛、その6
2019年10月26日00:36

「次はカルピスハイで」 その男は安居酒屋で毒々しい色のチューハイを次々に頼む。何の意志もないままに、上から順番に、全色頼む。全種類というよりは全色なのだ。しかも強い。強いと言っても安居酒屋の色のついたチューハイはそう強いお酒でもない。しかし

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三文ポルノ礼賛、その5
2019年10月25日00:55

 その闇をオブラートにくるんで、やわらく伝えるのが筆者の仕事だった。そして、マニアたちは、その微かな闇に共感して、お客となるのだ。ゆえに、たいていの風俗関係者の闇が筆者のノートパソコンには溜まっていたのである。しかし、彼女には闇がなかった。

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三文ポルノ礼賛、その4
2019年10月24日15:14

「理屈の入る余地のないのが、お笑いとポルノなのよ」 その女は一流ファッション雑誌の副編集長だと言っていた。嘘か本当か、そんなことは追及しない。それが四十年近く前の新宿ゴールデン街のルールだった。ルールだったような気がする。「お笑いはね。読ん

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三文ポルノ礼賛、その3
2019年10月23日01:03

「七百円です」 立ち食いそば屋で一人七百円は贅沢だ。しかし、撮影の仕事を朝八時の集合で行ってきての昼飯である。ブラックと言えばブラックもいいところだった。 これは、今から四十年近く前の話なのだ。「天婦羅の三つのせかあ」 竹輪にコロッケに卵の

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三文ポルノ礼賛、その2
2019年10月22日14:56

「いいように利用されているだけだって言うんでしょ」 美人とは言い難いが、しかし、小さな身長が愛らしい女の子だった。女の子だったと言うが、その当時の若い筆者よりは五歳か六歳上だったと記憶している。男に騙されるようにして風俗嬢となり、さらに騙さ

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三文ポルノ礼賛、その1
2019年10月21日00:16

 その男は安い居酒屋でビールを飲みながら冷やしトマトを食べていた。まだ、出汁より脂、魚より肉を好んでいた若い筆者には、少ししか年齢の上でないその男が随分と落ち着いて見えたものだった。「三文ポルノは、まだ、いけるはずだよな」 彼はポツリと言っ

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 食べることについて書きたいのだが、それを書こうとすると、常日頃、筆者が否定している、誰も興味のなお前の晩御飯、と、そんな文章になりそうなので、ついつい避けてしまう。しかし、書きたいことはたくさんあるのだ。 たとえば、筆者はグルメであり、ま

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 エロ業界に活気があった頃、あの頃、同時に、エロ業界は不幸で満ちていた。おかしな話かもしれない。不幸と活気が共存していたのである。エロ業界は、性風俗も、雑誌も、儲かっていた。景気がよかったのだ。しかし、雑誌のモデルの女の子たちも、風俗嬢たち

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 その昔、性風俗は面白かった。ストリップの規制が厳しかった頃、額縁ショーというのがあった。ストリッパーが動いてはワイセツというので、人間を絵画にみたてたのだ。面白いことを考える人がいたものである。ノーパン喫茶というのもユニークなら、覗き部屋

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 ホラーは誰かの恨みによって成り立っている。諍い、争い、妬み、恨み、憎悪、嫌悪、後悔、奇怪、奇々怪々。 明るいところではホラーは成り立たない。そのくせ、明るい場所が暗い場所より怖いところもあるから、これもホラーの面白いところなのだ。たとえば

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 取るに足りないくだらないことについて、真剣に論じることが嫌いではない。ドラゴンの飼い方とか、幽霊とのルームシェアの注意点とか、地獄の楽しい過ごし方とか、そうしたものは嫌いじゃない。 そこで、こんな企画はどうだろうか。「正しい三文ポルノ小説

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 ホラーを書いていると、あれも、これも、と、書きたいことが出て来る。いや違う。書かなければいけない、と、そんなものが出て来るのだ。それはたとえば、好きな映画を五本とか、好きな漫画を五本選んで、それについて書いてくれ、と、そうした依頼の原稿を

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 記事は、編集者からデザイナーに渡り、そして、最終校正の日には筆者も立ち合い、ここで、最後の電話確認などをする。記事の入れ替えの準備はしてある。ここで撮影した女の子が辞めたから記事を載せないでくれとか、店がすでにつぶれているなんてことさえあ

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「どうします。こんな私とじゃあ、プレイするのは嫌ですよね」「まさか。そっちこそ、大丈夫。体験とはいえ、僕の前でオシッコしたり、僕の裸を見たりしちゃうわけですよ」「それ、はじめてってわけじゃないですよね」 そうなのだった。二人でのホラー取材の

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 彼女はカメラマンの女の子で、かなりの怖がりだった。しかし、だからこそ、ホラー雑誌では重宝されたのだ。やはり、ホラー写真などというものは怖がりが撮らないと恐怖が絵に出ないものなのだ。筆者も、自分の仕事で彼女をよく使っていた。怖がりがこちらに

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 あれは本当に怖かった。 筆者はSМ風俗の取材で新潟にいたのだが、一人だった。体験取材もあるというのに、同行するはずの編集者が急遽会社を辞めてしまったからだ。仕方なく筆者は一人で新潟にいた。エロ出版社では珍しいことではない。しかし、取材は変

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 一人きりの取材だったが、担当編集者のていねいな仕事のおかげで仕事は順調だった。初期型のカーナビで、今ほど性能はよくなかったが、しかし、珍しく迷うことなく取材は進行した。阿引池という奇妙な名前の池から、日本には珍しい銃殺事件があったという元

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 あれは怖かった。 神保町で打ち合わせをしていた。ある地方のホラースポットの写真を撮り、同時に、それぞれのスポットにまつわる噂話をレポートするという企画だった。噂話の資料は担当編集者が揃えてくれていた。楽な仕事になるはずだった。写真も、ホラ

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十月の課題小説
2019年10月07日01:08

 文庫本が一冊なくなった。単行本ではない。ましてや豪華本でもない。ただの文庫本だ。でも、私にとっては大事な一冊の本なのだ。いや、違う。そんなに大事なら、また、買えばいいのだ。別に稀少本でさえないのだから。私は、文庫本が部屋から消えたことに自

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 涙で前が見え難い。巻き込まれているという彼女の言葉が心に深く沁みてきた。大丈夫、行かないのだ。行かないと決めたのだ。もう、幼女とは無関係なのだ。そう心で念じながら、最初の目的地のことを考えた。そこは地蔵に纏わるホラー現場だった。地蔵。地蔵

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 あれは怖かった。 その取材はフリーの編集兼ライターの女性と二人での仕事だった。筆者は編集兼カメラマン兼運転手だ。筆者たちは仕事終わりの夕方に会社を出て、午後九時過ぎに関越自動車道を走っていた。その時間にしては不自然に道は混んでいた。工事か

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 ファミレスを出てしばらく走ると道路が渋滞した。この時間にどうして、工事か事故かと考えていると、やがて事故現場にさしかかった。三重衝突のようだった。パトカーに消防車も到着していた。筆者がそこにさしかかる少し前に救急車が一台、サイレンを鳴らし

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 あれは怖かった。 車はトヨタのカムリ。トランクが大きくトヨタの頑丈さとカメラバックの強さを信じて乗り換えたのだが、しかし、やはり、機材は後部座席に積み上げていた。習慣はなかなか変えられないものなのだ。 その頃は、ホラーコミックの編集長をや

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「お茶、コーヒーのほうがいいかな。若いものね」 若い、筆者がまだ二十代の頃の話なのだ。コーヒーを選ぶと、整理されているものの使用感のあるキッチンに立ち、彼女はサイフォンでコーヒーを淹れてくれた。良い香りがした。そういえば、霊能力者にありがち

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 あれは怖かった。 そして、あの夜はモテていた。 霊能力者の多くは都心に住んでいた。何しろお客が都心に住んでいるのだからビジネスとしては当たり前のことだ。霊的障害の相談、除霊、診断、そして、占いのようなことも行う。ところが、その女性は寂れた

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