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日記一覧

 ガメラが玄関からやって来た。緑色のダウンジャケットを着ているという点を除けばガメラらしさがない。中年の男にしか見えない。人間になるなら老人かと思ったのが、思ったよりは意外と若かった。「それ、脱げるのか」 恐る恐る筆者が尋ねると、ガメラは少

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 もう何十年も前のことになる。筆者も、まだまだ若かった。いろいろな仕事の可能性を持っていた。成功したかどうかは別として、可能性だけは、数多くあったのだ。その中で、エロ雑誌は、もっとも効率の悪い仕事だった。手間がかかるし、儲からない。ビデオメ

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 新宿のそこそこのシティホテルの部屋で筆者は夜景を眺めていた。夜景を眺めながらコーヒーを飲んでいた。大きな窓、窓を横にした大きな机。そこにモバイルを置き、黒い画面をそのままに、呆然自失になって窓の外を見ていた。終電を過ぎて動きの止まった線路

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 近所の空き地や資材置き場のような場所にエロ雑誌を子供同士で探しに行った幼い日。筆者は文字ばかりのマニア雑誌を探していた。しかし、それは他の子供には受け入れられなかった。写真のたくさんある雑誌を探せと皆に言われたのだ。エロ雑誌は皆で共有され

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 ほんの短い間だったが、ホラー雑誌とエロ雑誌を同時に作っていた頃がある。あの頃はホラーコミック雑誌ブームの頃だったので、三十年以上も前になるか。 エロ雑誌の風俗店取材で地方に出かけるが、これはどこの街に行っても繁華街だ。広島や札幌では、城も

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 途方に暮れていた。珍しいことではなかった。筆者は人生のほとんどの時間、途方に暮れているのだ。その日もそうだった。 筆者は伊豆の山の中で遭難していたのだ。伊豆である。それも、天城峠である。ハイキングコースなのだ。遭難などするはずのない道なの

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 銀玉鉄砲というのが流行していた。もう一度東京でオリンピックがあるなどと誰も想像していないような昔の話だ。 筆者が暮らしていた街は大型の工場が出来て、その周辺に作られた新興住宅地だった。ゆえに、街の中には貧富の差があった。銀玉鉄砲どころか銀

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 大テーブルの食器をキッチンに運び、一人、それを洗っていた。ゴミをまとめ、缶と瓶を分け、洗っては拭く。長く撮影現場やイベントを仕切っていると、とにかく後片付けは得意になるものなのだ。そして、苦にもならないものなのだ。自分の手際の良さに自分で

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 もう四十年以上も前のことになる。マニア業界に筆者が入って来た、その頃には、マニアは皆、一人きりだった。一人きりが集団になっているという奇妙な状態にあった。非社交的で口下手で不器用で、大酒飲みのくせに飲みに行っても会話がない。スポーツもカラ

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 全球空振り。あまりに情けない。池袋のサンシャイン60の近くにあったバッティングセンターは昼間から快音が響いていた。ワイシャツ姿でホームラン性のあたりをしている男たちが数人いた。筆者には野球経験がなかった。まったくなかったのだ。バットの振り

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 楽しそうだった。笑い声がそここにあった。舞台では女が縛られていた。それを囲むように、照明の人がライトをあて、カメラマンが中央を遮り、編集者らしい男女が三人でその後ろに立った。さらにそれを囲むように、お客であるところのマニアたちが輪を作って

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 まだ、世の中はバブルの絶頂にあった。筆者もバブルの恩恵か、少しばかり儲け、その儲けたお金で風俗店を作り、しかし、それをつぶしていた。儲かったまま、つぶしていた。そして、弱小どころか明日には夜逃げかと思われる出版社で、一人、マニア雑誌を作っ

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 いっさいの束縛を受けないために、仕事もフリーで、生活も一人で、通信手段は家に設置された電話のみで生活していた。携帯電話などない時代なので、それで十分だった。フリーでも、仕事はけっこうあったので、裕福ではないが生活には困っていなかった。困っ

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 気分が滅入ってくれば体調もおかしくなるものだ。睡眠のサイクルが崩れ、頭痛と胃痛に悩まされることになり、なお、この時期には筋肉痛にもなりやすくなるのだから不思議なものだ。 頭痛は何とか我慢出来るのだが、胃痛のほうは、意外と大変なのだ。食べれ

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 SМの世界に何十年もいたわけなので、好きな人も嫌いな人も、当たり前だが数多くいた。不思議なことに気分が滅入っていると、嫌いな人のことよりも好きな人のことばかりを思い出す。嫌いな人を思い出すのには精神力が必要だからなのかもしれない。 しかし

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 寝てはいけないときには、異常なまでの睡魔に襲われるというのに、眠ろうとするときには覚醒している。こうしたことにも慣れた。気分が滅入っているときは、そうしたものなのだ。こうしたときは、まず、眠ることを止めてしまう。そうでなくても睡眠時間が異

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 気分が滅入っているときに、そういうときには楽しいことを考えるようにしたほうがいい、と、おかしなアドバイスを受けることがある。食欲がないという人に、そういうときは食べるようにしたほうがいい、と、そうアドバイスするのだろうか。根本の解決になら

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 負け続けた人生だった。運にも恵まれないが勝ちにも恵まれてこなかった。何をやっても最後は負けて終わった。出版も、ビデオメーカーも、風俗店も、学問でも、スポーツでも、恋愛でも、その他の、あらゆるビジネスでも最後には負けて終わっている。ゆえに、

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 気なんかいつだって滅入っていた。どんなに頑張っても成果は出ない。それは何もサロンの問題だけではない。自分自身も、成長の速度を老いの速度が追い越して行くのだから、これで楽しいはずもない。起きている時間の大半は落ち込んでいる。ふさいでいる。起

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 書きたいことは、まだまだ、たくさん残っている。好きだったSМクラブがつぶされたとき。他の出版社のマニア雑誌をつぶそうと画策している人を見たとき。SМパーティで見栄をはる男たちがいなくなったと感じたとき。SМ嬢がアルバイトで昼間の仕事をはじ

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 マニア世界には文学で成り立っていた時代があった。筆者はその最後を少しだけ知っている。純文学ではない、政治思想はない、芸術とは縁遠い、その上、お金にもならない、モテもしない、それがマニア世界だったのだ。雑誌も、マニアのサークルも儲かりはしな

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 バカを尊敬するというのは、おかしなものだ。しかし、尊敬に値するほどのバカは変態世界には少なくない。その男もそうだった。その男のバカは、トイレ覗きにあった。最近では、もう、珍しくもなく、一時の盛り上がりも、すっかりなくなっている。しかし、今

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 エロ本の打ち合わせというものは、それは如何わしいものだった。 バーのカウンターの隅で、二人でこそこそとグラビア撮影の打ち合わせをしていたら、馴染みのバーテンに「お客さん、そちらの、そのヤの付く業種の方だったんですね、見えませんねえ」と、言

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「ダメ、お尻はNGなの。言ってあるから。書いてあるはずだから。宣材見て。事務所に聞いて。お願い。ダメ、絶対に無理。それだけは嫌なの」 SМビデオの台詞ではない。ただのグラビア撮影の時の台詞だった。モデルの女は涙を流していたが、緊縛されてしま

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 SМにかぎらず、エロごとは絵空事だ。空想と妄想と真似事のごった煮に、リアルという調味料を少し入れているだけの活字料理だ。絵空事ゆえに、犯罪も許されるのだ。似ているといえばホラー雑誌だった。ホラー雑誌も絵空事。本気になってしまえば、それはホ

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