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2022年01月20日15:16

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アイさんの矛盾、その4

「もし、人々の尊敬を集めるものが神だとするなら、宗教による争いはないことになるな。それにしても、なんとも、ドリップの腕を上げたものです。このコーヒーは本当に美味しい」
 コモドの旦那に褒められるのは、やっぱり嬉しい。ただ、残念ながら、ドリップには、まだまだ偶然の要素が大きい。常に美味しく淹れられるというわけではない。
「本当ね。素晴らしい香りよ。さてと、たとえば、野球少年は偉大なプロ野球選手を尊敬するわよね。サッカー少年がそのプロ野球選手を非難する意味はないわよね。他人の尊敬する人を貶す意味はないわけよね」
「そうだよ。ドラゴンを神だと信じて、俺を尊敬する、このトカゲ野郎もバカにしてはダメなんだぞ」
 ドラゴンは、さすがにお腹が満たされたのか、袢纏を布団のようにかけてアイさんではなく、コモドの尻尾を枕に仰向けに寝転がって膨らんだお腹を自らさ擦りながら言った。
「このまま尻尾で絞め殺しますか」
 コモドの旦那が言うとドラゴンは「それは無理だぞ。俺、この大きさでも力は元のままだから」と、寝言のような声で答えた。
「だから、ここにいればいいのよ。旦那は子守りは苦手なのよ。男尊女卑を信条に生きてるぐらいだから」
 アイさんが膝を叩いて言うと、誰の目にも移動が分からないほどの速さでドラゴンはアイさんの膝の上に移動していた。すでに袢纏も着ていた。
 今度は袢纏を布団にして、アイさんの膝を枕に仰向けになっていた。そして、その膨らんだ腹は、ドラゴンの代わりにアイさんが撫でていた。
「この中でもっとも年長なのは誰ですか。アイさんよりも年長の人がいるでしょう。それは誰ですか」
 コモドの旦那が笑いながら言った。
「アイさんは物理法則の輪の外にいるから年齢はないぞ。だいたい、物理法則という思想に支配されてるなんて小さい男だな」
 物理は思想じゃないぞ、ドラゴンよ。
「そうよ、そうよ。だいたい旦那は小さいのよ考え方が。男とか、女とか、星とか、国とか、民族とか、宗教とか、小さな枠ばかり作りたがるんだから」
「こいつ、自分で飛べないから、どうしても思考が小さくなるんだぜ、きっと」
「ああそうだ。とっておきのお土産があったんですよ。申し訳けない忘れてました。ノベルズ食品のコンビーフですよ。ドラゴンは肉が嫌いだろうと思ってたら、うっかり出し忘れてしまいました」
 ドラゴンは、またもや、誰の目にも止まらない速さでコモドの旦那の尻尾の上にいた。袢纏はアイさんの隣に残ったままだった。
「さっき、肉饅頭食べるの見ただろう。俺は果物が好きなだけで肉が嫌いなわけじゃないんだよ。特に、コンビーフって最高の食べ物じゃないか。スーパーの安いのも好きだけど、お前、ノベルズのコンビーフってさあ、そんなすごいの持ってたのに、それを忘れるなんて酷いなあ。まあ、缶詰だから、すぐに食べる必要なんかないもんな。どうやって食べようか。そのまま食べるのもいいけど、コンビーフサンドも美味しいんだよなあ。どうしようかなあ。アイさんも食べていいよな。だって、お前、アイさんの肉饅頭食べたんだから。ああ見えて、アイさんは、ちゃんとお前のことも尊敬しているんだよ。分かってやれよな」
 コモドの旦那をバカにしてたのは、お前だけだぞ、ドラゴンよ。
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