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2020年07月08日15:15

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ホラーでないけど不思議、その3

 マニア雑誌の撮影というのは、まず、スカウトというよりはナンパ師に近い存在の男がモデルとなる女の子たちの写真を編集者に見せることからはじまる。
「この女の子なんてどうです。可愛いでしょ。これで、何でもありなんですよ。スカトロも大丈夫。もちろん、本番もあり。いや、本番なしだと逆に不満を言うぐらいです」
 そう言って紙焼きの写真を細面の線の弱そうな二枚目が筆者に差し出した。確かに可愛い女の子だった。
「いいね」
「いいでしょ。浅川アケミちゃん。二十歳ですよ。ギリギリの年齢。奥田さんとは長い付き合いだから、スカトロの最初は奥田さんとこって思って、まだ、やらせてないんですよ」
 他のことはだいたいやらせて、そろそろ仕事がなくなったから回して来たのだ。そうと分かっていても騙されておく、騙されておくほうがお互いのためだからだ。
 ギャランティの交渉がはじまり、撮影の日が決まる。
「浅川アケミって、当たり前だけど偽名だよね」
「僕が付けました。いい名前でしょ」
 浅川朱美という女の子に知り合いがいたのだ。中学一年の時の同級生だった。その時の筆者は三十歳を超えていた。モデルの年齢などいい加減なものだ。しかし、いくらいい加減でも、十歳以上も若く言うものだろうか。写真を見るかぎり、二十歳を疑っても、三十歳には見えない。
 それにしても似ている。似ているのは、中学生時代の浅川朱美に似ているのだ。二十歳になった彼女のことは知らないから、むしろ、中学生のままの彼女がそこに写っているかのように思えた。
 中学一年の時、筆者と彼女はお互いにエロ小説の作家になると言って、お互いに小説を書き、それを読み合い、互いの小説のために身体を見せ合ったりしたのだった。
 撮影の当日まで、筆者には、淡い期待があった。もしかしたら、あの浅川朱美が来るかもしれない。中学生の頃から少しも変わらない三十過ぎの彼女が来るかもしれない、と、そんなことを思っていたのだ。
 当たり前だが、そんなはずもなく、当日に来たのは、かなりエッチな二十歳の女子大生で年齢にも偽りがなかった。それに、実際に会ってみれば、やはり、浅川アケミは浅川朱美ではなかった。当たり前のことだ。
 酷いスカトロの撮影が終わり、筆者と彼女は共に汚物にまみれていたので、一緒にお風呂に入ることになった。明るい女の子で、風呂場でも、彼女は若い女の子らしく、はしゃいでいた。笑いながら、筆者はそれでも、楽しんでいる暇はなく、早々に風呂を出ようとした。女の子と風呂に入って、はしゃいで撤収の手伝いをしないというわけにはいかないからだ。
 風呂を出る瞬間、その後ろ姿に「本当になったんだね。エロ小説家に」と、彼女が言った。驚いて筆者は振り返ってバスタブにつかる彼女を見た。彼女はきょとんとした顔をしていた。筆者が「何か言った」と、尋ねると、笑いながら、首を横に振った。
 若い女の子を撮影で使う時には、いちおう免許証などで年齢を確認させてもらっていた。免許証は見ていた。年齢は確認していたのだ。あり得ない。それに、実際には、浅川アケミは何も言っていなかったのだ。それにしても、やっぱり少し不思議だった。
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