いかにも暴力的な若者たちの案内で奥の部屋に通されるのは何度体験しても慣れるものではない。しかし、奥の部屋に通れば、意外とリラックス出来るものだから不思議だ。しかし、そんなことは言わずに、恩に感じろとばかりに、大袈裟に恐ろしい事務所の様子と暴力的な人たちの様子をその男には語り聞かせた。
奥の部屋では、意外とあっさりと話し合いが終わった。そもそも、その手の人たちが、たかが女一人のことで大袈裟な問題にはしないものなのだ。もちろん、こちらが金持ちなら、また、話は違うのだろうが、貧乏編集者などいくら叩いても金になどならない、リスクを背負って叩くメリットが向こうにないのだ。
「書き物がいくつかあったので、それを無料で書いてあげることで納得してもらいました」
本当は、少し脅してやっただけで、もう、それは忘れていた、と、相手は言っていたのだった。しかし、書き物があるというのは本当で、ときどき、そうした物の添削や代筆をしていたのだ。筆者は、そうした業界には関われないので、そうした仕事は基本的に無料でやっていた。その程度を貸しだとは思っていない。思っていないが、向こうはけっこう義理堅く借りだと思っていてくれたりするのだ。
「代わりに詫びときましたけど。だいたい、どうして、トラブルになるの分かっていて、セックスしちゃうんですか。女には不自由してないでしょ」
その男は優男でどうしようもないが、不思議と女にはモテたのだ。ところが、その男の作るエロ雑誌は、女に対して冷たく残酷だった。そして、女の扱いも冷たかった。それが筆者には不思議だったのだ。モテるなら、女に優しくしていたほうが、もっと楽しい人生を選べるのではないか、と、そう思ったのだ。
「お前は、女が好きだから、そんなこと言えるんだよ。俺は、女が嫌いなんだよ。女、見てるだけで頭にきちゃうんだよ。イライラするんだよ」
その男はそう言いながら、ピース缶のタバコを咥えた。筆者は当時からタバコをいっさいやらないのに、そうした男のために筆者の部屋には常に大きな灰皿が用意されていた。
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