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2020年05月26日00:21

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官能の裏側、その3の3

 夜の海が見えて来た頃、風俗店のオーナーであるところの、その男の酔いは、すっかり醒めてしまっていた。途中、少しウトウトしていたので、それも影響していたのだろう。
「本当に悪いな」
 彼は自分の用事で車を出させたのに、助手席で寝てしまったことを詫びていた。筆者はその頃、ホラー雑誌にも‎関わっていたので、深夜の‎運転には慣れていた。助手席の人が寝てしまうことにも慣れていた。
「風俗嬢の面倒は、業界でみればいいんですよ。女の子たちに稼がせてもらっているのは、僕らも同じですからね。気にせずに、寝ててください」
「そんなわけにも行かないだろう。そういえば、今まで聞いたことなかったけど、そもそも、奥田君はどうして、この世界に入って来たんだよ」
「女にはモテないし、世の中からは落ちこぼれているからじゃないですか。まあ、この世界でも女にはモテませんけど、話ぐらいはしてもらえるし、裸も見ることが出来ますし、カメラの腕が悪くても、文章が下手でも、ポルノだからで誤魔化せるじゃないですか。社長こそ、その腕なら、性産業に手を出さなくても、十分に稼げるんじゃないですか」
 実際、彼の経営するいくつかのスナックやバーは儲かっていた。聞けば、他に、ブティックまでやっていると言う。むしろ、性風俗はリスクの割りに利益が薄いように筆者には思えたのだ。
「今夜のような、ね。こういうことがあるからだよ。そりゃ、普通の商売も日常が修羅場だけどな。それは主に金の問題だろう。でもよ。性風俗の女の子たちは、金じゃないんだよ。金なんていくらあっても自分では立っていられないんだよ。だから、こういうのに、あたふたしてくれるヒモのような男に騙されちゃうんだよ。俺が抱えている女の子たちはよ。俺があたふたしてやってれば、少なくとも、金だけは残せるだろう。俺はほら、金は稼がせてもらうけど、稼がせてもやれるわけだからよ。女衒だけどヒモじゃないからよ。俺は恵まれた家庭に生まれて、わりと普通に育てられたんだよ。普通ってのは、俺らの頃には十分に恵まれていたんだ。それを知ったのは大学に入った頃だったな。世の中は学生運動が盛んな頃だった。俺も、何となく参加してたんだよ。セクトなんてない。ノンポリの参加だよ。学生はそれをやらなきゃいけないような、そんな気分の参加。気分は正義の味方って感じかな」
 そうした世界とは無縁な男だと思っていたので、彼の話は少し意外だった。
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