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2020年04月07日00:50

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埃をかぶったポルノ、その6の1

 つぶれた会社には、机と椅子以外、カーテンさえも残っていなかった。3LDKのテラス寄りの窓に背をもられさせて室内を見ると、ため息が漏れた。けっこう頑張っていたのだ。人間関係に亀裂が入らなければ営業としては決して苦しいものではなかったのだ。
 あの時、ああしていれば、あの人に、こう言っていたら、あと少し資金に余裕があれば、借金さえなければ、家賃がもう五万円安ければ、いろいろと考えた。
 エロ業界に残ることは、いろいろな人に反対された。正業にもどるように言われた。エロでない新しい仕事に誘われた。それらを全て蹴ってエロ業界に残ったのだった。それを感謝してくれた人たちもいたのだ。しかし、批難する声も大きかったのだ。最後のほうは、仲間同士でのケンカばかりとなった。特に亀裂の入った女と女の間の修復は不可能だと思われるほど深刻になっていた。
 一緒に会社をはじめた友人とは絶交状態となっていた。どちらが悪いというわけでもなかった。
 何もかもが嫌になった。このまま、何もなくなったこの部屋で凍死でもしないものかと考えたりした。
 その時、カバンにエロ小説本が入っていることを思い出した。人生の最後に持っていた唯一の本がエロ本というのもどうかと思った。むしろ自分らしくていいかもしれないとも思った。ただ、それなら、もっとも好きなエロ本を持っていたい、と、そう思い直した。もちろん、凍死などするはずもないので、全ては、ただの妄想である。
 その時持っていた、心中するには値しないところのエロ本には、しかし、一つの印象深いシーンがあったのだった。
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