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2020年03月31日01:05

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埃をかぶったポルノ、その3の1

 あれは筆者が二十代の後半の頃だったと思うのだが、あの頃は何しろ生活が大変で、記憶は錯綜している。十万、二十万を財布に入れて遊んでいたかと思えば、千円札一枚なく、仕事もないのに出版社の弁当の時間に居合わせ、弁当だけとってもらうという生活をしていたりもした。
 その時も、お金がなく、家賃滞納で部屋にも帰り難く、しばらく部屋にもどらない間に間違って家賃のことが忘れられているなんてことはないだろうか、と、そんなバカな考えを本気でしていたぐらいだった。
 かろうじて残っていた風俗取材の仕事先の風俗嬢に、そんな話をしたら、一か月、二か月ぐらいなら、自分の部屋にいてもいいと言ってくれた。これが憧れのヒモ生活かと喜んだ。それまで不遇の人生で、自分は世界でもっともモテない男だと思っていたが、見る女が見れば自分の魅力も分かってもらえるのだ、と、そう思った。しかし、実際は違っていた。
 安い映画にさえ出て来ないような、絵に描いたようなチンピラのような男がストーカーとしてその風俗嬢につきまとっていたのだ。
 留守番件用心棒。しかも、そうして筆者を家に置いてもいいと思ったのは、筆者が取材中に、自分は変態だからセックスを望まないんだ、と、言ったからだった。そんなの強がりに決まっていると思わなかったのか。どうせモテなくてセックスなどしてもらえないから、こちらから断って格好つけていただけなのだ。ただの強がりだったのだ。 
 出版社の支払いは納品の翌々月末と、そんなものが多かった。二か月後には、入って来る予定があった。食費がなければ、細々と続けている風俗取材の原稿料で、かろうじて滞納の家賃だけは払える。しかし、その月の分までは無理。二か月後になれば、しかし、まとまったお金が入る。そうして、筆者はセックス抜き、掃除と洗濯と買い物と料理と風俗嬢の送り迎えをしながら二か月を過ごすことになった。
 ヒモではないので小遣いまではもらえない。ヒモなら風俗嬢が働いている間にパチンコぐらい出来るのに、そんなお金もない。自分の仕事以外の時間は、テレビさえない部屋で、じっとしているしかなかった。少女漫画がたくさんあったので、それを読んだ。すぐに読むものはなくなった。仕方なく小説を読み始めた。
 その中にすごいものがあった。
 新書サイズの本だった。タイトルも作者名も覚えていない。作者が女性だったという記憶はあるのだが、女性名の男の作家だった可能性もある。いや、その可能性のほうが大きい。筆者は、たった二か月の間に、この小説だけは十数回読み直していた。それでもタイトルが思い出せないのだ。ポルノ小説とはそんなものかもしれない。
 しかし、そのストーリーの一部分だけを鮮明に覚えているのだ。
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