mixiユーザー(id:2938771)

2020年02月29日01:08

103 view

アイと万次郎、その4

「その話、先ほど、僕がしていた‎話とも通じませんか。つまり、僕らからすると、どうも、地球人がロボット化しようとしているようにしか見えない、と、その話」
 ウルトラマンは顔にパックをのせて、上を向き、長い髪を左右に揺らしながら言った。その姿にアイさんが嫉妬の目を向けたのを筆者は見逃さなかった。アイさんも美しいのだ。しかし、それを凌ぐ色気が彼にはあるのだ。もっとも、それは地球上の仮の姿であり、アイさんのほうは、むしろ、地球上には肉体はなく、つまり、その姿は真実の姿なのである。ゆえに、アイさんの美しさは本質の美しさであり、仮の姿のウルトラマンよりも、優れて美しいということになるはずなのだが、そこは当人のアイさんには関係ないようなのだ。
「‎ロボットになろうとしている、どういうこと」
 不機嫌なのは、ウルトラマンの論理に共感出来ないからではなく、彼の美しさによるところのものなのだろうに、ウルトラマンのほうは、それに気づかない様子。美というのも難しいものである。
「ロボットの定義はいろいろあると思うんですけどね。何よりも知能が人工であるというところですよね。つまり、肉体の全てがマシーンだったとしても、脳が人間なら人間なんですよ。逆に、肉体の全てが有機体だったとしても、人工知能で動いていれば、それはマシーンということになるわけです」
「それが何なの」
 アイさんは、まだ、少し不機嫌だ。
「たとえば、今の地球人は、何かと言えばインターネット検索ですよね。会話はスマホを通じてショートメールですよね。もし、インターネットの向こう側がコンピュータだったとして、誰が気づくのでしょう」
 言いながらパックをとると、アイさんの表情が少し和らいだ。いい男はそこがずるい。たいていのことはその顔で解決出来るのだ。もっとも、その美しさに嫉妬して不機嫌となり、その美しさに機嫌を直す女心のほうにも問題はありそうなのだが。社会における女性の待遇差別についてデリケートなアイさんだが、そのあたりには少し矛盾がある。その矛盾が人間というものなのかもしれない。いや、アイさんには実態がないわけだが、さて、彼女は人間でいいのだろうか。
「万次郎の言うことは分かるわよ。それで、どうして幽霊が減るわけ」
「次郎です。幽霊というのは、生命の本質、つまり、脳の本質だからですよ。もし、地球上に生命がなくマシーンだけになったとしたら、その世界には幽霊は存在しないわけなんですよ。だって、幽霊の前に、心がない、心の前に、感情がない、感情の前に、そもそも、生体としての脳がないんですからね。人工知能には感情は作れないし、感情が出来ても、それは心にならない。もし、心のような反応を作れたとしても、幽霊、つまり魂にまではならないわけです。ゆえに、マシーンは幽霊にはなれないんですよ」
「私、誤解してた。万次郎、あなた、頭いいのね」
「次郎です。ウルトラマン太郎とは無関係のウルトラマン一郎の弟のウルトラマン次郎です。私の得意は格闘ではなく学問ですから」
 確かに彼は頭がよさそうだ。しかし、それなら、幽霊は存在しているということでいいのだろうか。そこ、科学的にそれでいいのだろうか。まあ、実際に、目の前にアイさんがいるし、筆者はアイさんの淹れたコーヒーのお代わりが欲しいと思っているのだから、幽霊がいないとも言えないのだが、科学的に言うならどうなのだろうか。はたして、それでいいのだろうか。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年02月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829