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2020年02月26日01:14

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アイと万次郎、その1

「おこんばんは」
 ウルトラマン次郎が風呂から出ると、まるで、そのタイミングを計っていたかのようにアイさんが現れた。嫌な予感が的中したというわけだ。
「やっぱり万次郎がいたか。いい男臭いって思ったのよ」
「次郎です。ウルトラマンの次郎、ウルトラマン次郎です」
「いい男なんだけど、小さいのよねえ。まあ、変身すると大きいみたいだけど、魂が小さいのよ。だから名前なんかに拘るのよね。そして、小さいからテレビ出演の依頼もないまま終わるのよ」
「出演はして……、そりゃ、まあ、そうですけど、でも、シリーズは終わってないですから」
 彼が何かに口ごもるのを感じた。そして、もしかしたら全シリーズがこいつの変身なのではないかと、また、疑った。太郎の前に地球に来ていたのが弟の次郎のほうだったとしても不思議ではないのだ。
「いいのよ。名前はどうでもいいの。私なんて、イニシャルでしか名乗れないのよ。祟り神のように言われてしまっているから」
「アイさん、こんな時間に起きていていいんですか。お肌に悪いですよ」
 風呂から出たというのに、彼はまだたくさんのローションを顔に叩いている。そして、叩きながらアイさんのほうは見ようとしないまま鏡に向かって、そう言った。それに対して、アイさんのほうも、彼ではなく、鏡の中の彼に向って答えた。
「私はアレだから、アレはようするに実態がないってことだから、もう、肌は荒れないのよ。まあ、そこだけは、つくづく有難いと思うのよ。もっとも、実態があっても、コモドとかギャオスはおかまいなしでしょうけどね。肌というよりは皮膚だしね」
「その点、ガメラはちょっと大変ですよね、油断すると肌荒れどころか錆ちゃうんですからね」
 実態がない、と、しばしば彼女は言うのだが、実態がないのに、コーヒーなど淹れて飲む。実態がないと言うわりに、香りにも味にも、かなりうるさい。ただ、ちょっと献身的なところがあって、何でも自分でやってくれるところは宇宙生物たちよりは有難い。
「万次郎は要らないでしょ。夜中のコーヒーは肌に悪いから」
「いえ、飲みますよ。だって、ここで寝てしまったらアイさんに何を言われるか分かりませんからね」
「あら、私はガメラとかギャオスほど子供じゃないからウルトラの陰謀とか言わないわよ」
 長い夜になりそうだ。

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