「まだ、お土産があるのか」
カバンの中から何かを探し出そうとしているウルトラマン次郎に筆者が言うと、彼は不思議そうな顔で筆者を見ながら「就寝前のお手入れ道具ですよ」と、言った。これから寝るのだから当然だと言わんばかりだった。バスタブのお湯もためると彼は言った。バスソープを使うかららしい。
「でも、また、飛んで帰るのだろう。飛んでいる間に、どうせ汚れちゃうんじゃないか」
「だからですよ。その前に防御しておくんですよ。その前に就寝するわけですしね。あのね。日本の男は少し美意識に欠けてますよ。自分はぶよぶよのみっともない身体で、女性にばかり美しく若くあれって望むの、どうかと思いますよ。僕の星じゃあ、ナルシストでない男は男として認められていないぐらいですよ。どんなに強くても美しさを保つ努力のない男はダメ男です。自分の美に拘れない男は仕事も出来ないし、遊び心もない、と、それが僕の星の常識ですからね」
確かにそうしたこともあるのかもしれない。もっとも身近な存在である自分を管理出来ない、もっとも容易く扱える自分の肉体を意識出来ないのに、どうして仕事や他人のことを考えることが出来るだろうか。
しかし、それにしても、彼はカバンから、いくつもの道具を出し、入浴には一時間以上もかけたが、さすがに手間のかけ過ぎではないだろうか。人間は仮の姿なのだから、その姿はどうにでもコントロール出来そうなものなのだが、そこは不思議なのだ。まあ、それがダンディズムというものなのかもしれない。もっとも、それだってコモドオオトカゲが聞いたら怒りそうなダンディズムなのだが、それも、また、彼らの宇宙生物たちの面白いところなのかもしれない。
一時間の入浴中。風呂場から聞こえてきたのは「カサブランカ・ダンディ」だった。それも、相当に歌いこまれているようだった。ウルトラマンに対する筆者の考えが少し違ってきた。ウルトラマンは意外とミーハーなようなのだ。それにしても、どうして、日本の七十年代なのか、そこは分からなかった。もしかしたら、こいつ、その頃は別の名前で日本で活躍していたとか。筆者たちには別のウルトラマンに見えていたが、何しろ変身する生き物ゆえに同一人物だとしても分からないのだ。少し怪しい。ガメラたちがウルトラの陰謀と騒ぐのは、そんなところに理由があるのかもしれない、と、そうも思った。
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