mixiユーザー(id:2938771)

2020年01月27日00:22

36 view

孤独お気楽優しく地獄、その9

 ほんの短い間だったが、ホラー雑誌とエロ雑誌を同時に作っていた頃がある。あの頃はホラーコミック雑誌ブームの頃だったので、三十年以上も前になるか。
 エロ雑誌の風俗店取材で地方に出かけるが、これはどこの街に行っても繁華街だ。広島や札幌では、城も時計塔も観たことがない。京都にも何度も行ったが神社仏閣には立ち寄っていない。駅前か繁華街のホテルと喫茶店と風俗店とラブホテルにしか行かなかった。つまり、街から出ることがほとんどなかったのだ。ところが、ホラー雑誌は違う。何かの事件跡とか、ホラー現場となるような場所はたいてい郊外にあった。
 筆者は繁華街の外れの寂れた喫茶店でホラーの原稿を書いたり、次の企画について考えたりするのが好きだった。逆に、ホラースポットのあるようなローカルな駅の土産物屋を兼ねたような店でコーヒーを飲みながらエロ雑誌の原稿を書いたりするのも好きだった。
 知らない街。知らない風景。馴染みのない店。言葉は日本語だが、どこか違和感があり、空気も違う。ホラー取材先のビジネスホテルの喫茶スペースの朝には、ビジネスホテルだというのに馴染みのお客しかいなかったりした。土地の言葉で土地の話題で会話をしているのだ。その人たちからすれば筆者は異邦人なのだ。ボロボロのモバイルギアを開き、ひたすら、休みなくキーを叩いている。一度、そうした喫茶スペースでホテルのおばさんに、よく、あんなに長い時間、休みなく打ち続けられるねえ、と、言われたことがあった。一時間程度なら、キーを打ち続けられたのだ。その手は一瞬も休まない。それは見慣れない人には奇妙に見えたのかもしれない。筆者は昔からタバコをやらないので、それこそ一服の休息もとらないのだ。熱いコーヒーがそのまま冷めていることもあった。
 異邦人。そういえば、筆者はどこにいても異邦人だったような気がする。別に、変わり者を気取るつもりもないし、自分が特殊だと主張するつもりもない。ただ、価値観は、いつも、ずれてしまうのだ。それだけに地方取材をスタッフと行くのは嫌だった。気が合わないからだ。いや、正確に言うなら多くの人とは気が合わなかったからだ。ホラー取材はホテルにもどるのが深夜になる。それは筆者には平気だった。しかし、中にはせっかくだから夜は酒を飲みたい、だから、少し早く切り上げようと言われたりした。風俗店の取材では、朝の十時にビジネスホテルを出されても、夕方までやっていることがない。二人では喫茶店のはしごさえ辛い。しかし、一人なら気楽なものだ。知らない街の喫茶店で一人、ぼんやりと企画を考えたり、原稿を打っていればいいのだ。喫茶店のはしごは楽しい。地方のゲームセンターも面白いし、商店街があれば、そこを探索するのもいい。
 一人遊び。思えば、マニアのエロというのは、究極に一人遊びがあったような気がする。乱交のような場でも一人。異性との二人きりのホテルの部屋でも一人。そして、何よりも、一人でフラフラしているのが好きだからマニアだったのではないだろうか。
 最近のマニアは、しかし、二人でいたがる。相手を独占したがる。一人が寂しいので、その反動で嫉妬心が強くなる。一人では闘えないので群れたがる。仲間を求め、共感を強制したがる。それはマニアとは、まったく別のものだったのではないだろうか。
 そういえば、いつの時代からか、地方の街でも、その光景が見慣れて来た。マック、スタバ、ミスドは、店の中に入ってしまえば、そこが東京かそうでないかなど分からない。しかし、便利なので、筆者も、つい、そうした店を利用するようになった。
 それでもよかった。見える光景は同じでも、そこは、やっぱり異世界なのだから。いや、同じ光景を見ているからこそ、そこが異世界であることが面白かった。そして、筆者は思ったものだ。この感じを本にしたい、この感じこそがエロなのに違いないのだから、と。しかし、それは誰の理解も得られなかった。そんな小難しいエロはエロじゃない、と、そう言われたのだ。その通りかもしれない。分かりやすいラブラブのエロがエロなのかもしれない。それでは筆者にはエロ本を作ることは出来ない。出来ないのだ。
 日本語しか聞こえない異世界。都内で見慣れた内装なのに異世界。その中で、筆者は一人を楽しみたかったのだ。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年01月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031