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2019年12月15日00:26

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アイさんコモドと鉢合わせ、その8

「私ねえ。ものすごく疑問なのよ。コモドの旦那のこの紳士ぶりね。不格好なスタイル。短い脚。二足歩行というよりは尻尾を利用した三足歩行。その上、この旦那は老いているものだからステッキも使って四足歩行。いっそ、素直に前足を地面につけて普通の四足歩行すればいいのに、それはしないプライド。そのプライドだけど。何なの。この不格好生物のどこにプライドがあるって言うの」
「間違ってもらっては困るなあ。ドラゴンのでっぷりとした腹は裕福の象徴なのよ。短く太い脚というが、実は長い。腹で隠れているだけでな。これは身体の安定を象徴している。尻尾がしっかりしているのはドラゴンの高貴さの象徴。どこからどう見ても、私は素敵な男だろう。コモドオオトカゲたちの憧れになっていても不思議じゃないな」
 アイさんは、両手を上にして首を激しく左右に振った。もう呆れて二の句が継げないと、そんな仕草だ。しかし、コモドは自分のその話に、少しの疑問も抱いていない。それどころか、コモドは、自分の姿はコモドオオトカゲだけではなく、全ての生命の憧れに違いないと信じているようなところがある。
 その男らしさ、と、表現したくなるところが、しかし、アイさんの気に入らないところなのだろう。
「そのドラゴンの素敵さも私には分からないけど、その前に、旦那はコモドオオトカゲであってドラゴンとは無関係なんですよ。分からなければ教えましょうか。一つに、ドラゴンは神獣なんですよ。神の獣ね。一つに、ドラゴンには羽根があって飛べるのよ。ガメラじゃないけど火も吹けるのよ。コモドの旦那、どこがドラゴンと一緒なの」
「アイさん、地球の子供の絵本の読み過ぎだな。信じているのかね。巨体で飛べる生物がいるなどと。もし、この身体が飛ぶとしたら、どれほどの羽根の大きさが必要か分かるかね。まあ、そうした意味での非常識が二匹もそばにいるので、何とも言えないがな。ただ、ガメラは機械だし、ほら、ギャオスは宇宙生物だからな。そんなものには常識は通じないわな。しかし、ドラゴンは地球上の生物だから」
「だからドラゴンの存在は非常識じゃないと言うわけ。常識って、そもそも何なのよ」
「そこだ。常識。これに捉われて差別が起きるし、大人たちの差別の概念が子供社会のいじめとして反映しているというわけだよ。大人たちは自分たちが心の根の部分に差別意識を持っているのに、子供には差別はいけない、いじめはいけない、皆で仲良くなどと、ふざけたことを言う。差別はある。いじめもある。皆が仲良くなんて出来ない。だからこそ、そうしたことが行き過ぎないように互いに工夫するのが社会だと教えればいいのに、それをしない。理想というよりも空想社会を子供たちに押し付けているんだから、子供には分からないはずだ。分からないほうが自然というものよ」
 突然、アイさんがその細く長く美しい脚でコモドの腹を蹴った。もちろん、コモドの刃物も通さないような硬い腹はピクリともしない。
「女。しかも、人間の女の蹴りぐらいには動じない。動じないから、蹴られても屈辱も感じない。強い差別意識が本気のケンカにならない一つの理由よ。違うかしら、コモドの旦那」
「いや、それはそうだが、その前に、アイさんには足があったんだなあって驚いて」
「日本贔屓過ぎよ。幽霊に足がないのは日本ぐらいだから」
「そりゃそうだ。そうそう。暴力だ。今、暴力があった。これはコモドいじめだ。糾弾するぞ。なあ、お前も見ただろう」
 急にコモドが騒ぎ出した。
「面白いでしょ。でもね。私が本気で怒ったら祟り殺すのよ。蹴ったりしない。コモドの旦那が今の行為に本気で腹をたてたら、暴力で応じるのよ。騒ぐ前にね。お互いが安全と限界を考えてケンカをしているというわけなのよ。ケンカをしない、争わない、そんなの無理なのよ。だったらルールを教えるべきなのよ。そもそも、それがスポーツになり、格闘技になったんじゃない。スポーツで勝ち負けに拘るほうが、いっさい争わないまま限界を超えて戦争になるよりいいからじゃない。違う。そしてね。教えてあがるべきなのよ。コモドの旦那は不格好なんだってね」
 コモドが珍しく一言も反論しなかった。
 なるほど、アイさんのそんな考えもあるのかもしれない。
 コモドはアイさんの話に大きな頭を上下させ納得した仕草をしているのかと思ったが、それは、ただ、ウトウトしていただけだった。
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