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2019年12月14日00:42

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アイさんコモドと鉢合わせ、その7

「美味しいチョコレート、美味しいコーヒー、素敵な悪口、これが最高なのよね」
 アイさんはコーヒーを注ぐコモドにお礼を言った。確かに、最後にアイさんのカップにコーヒーを入れたのはコモドだが、洗い物をして、コーヒーを淹れたところまでは筆者の仕事だ。釈然としない。
 それと見抜いたのかコモドは「不満そうな顔をするな。熟成肉の良いのを持って来てやろう。お前たち人間には、とても作れない美味しい熟成肉だぞ」と、言った。
「ガメラが好きなヤツですよね」
 と、筆者が言うと「ロボットのくせになあ」と、コモドが返した。そして、笑った。笑ったと言っても声も出さないし表情もない。ただ、短く口元を上下させるだけだ。
「ところで、人間よ。お前には、ガメラとギャオスが闘い続ける意味が分からないだろう」
「分かりますよ。敵だから。敵の星だから」
「この男は本当にものが分からないのね。さっきまでの私の話を聞いてなかったの。目が細いから分からなかったけど寝てたのね」
 アイさんが呆れたように言った。
「アイさんは差別はなくならない。だから闘いもなくならないと言っていたわけだ。逆に言えば、闘うことこそが差別を助長させない手段だということなのよ」
 分からなかった。差別をなくすための闘いではないのだろうか。
「皆仲良く、ケンカしない、争わない、そう言っている人にかぎって、恨むものなのよ。ケンカして、争って、競っている人たちはね。根にはもたないのよ。つまり恨まないの。アスリートや格闘家が負けた相手のことを生涯恨んでいるなんて話を聞いたことないでしょ。負けたら次に勝つことを考えるだけなのよ」
「ところが、ケンカはダメだ、仲良くやろう、と、そう言う人間にかぎって、ケンカになったら、もう、生涯の敵、恨み骨髄となるわけよ。私は自分を高貴なものと信じることで他を差別する。同じ理由なんだよ。仲良くやれば、仲良くない者を生むことになる。仲間はずれだな。それが差別を理不尽なものにしてしまう、と、アイさんはそう言っていたわけよ」
 そう言えば、ガメラもギャオスも、常にケンカしているが、映画のような殺し合いには発展していない。そんなことをすれば地球人に迷惑がかかるからかと思ったが違うのだ。ケンカしながら相手を理解しているのだ。ケンカせずに、仲良くやっているふりをしていれば、相手を理解する努力をしない。ゆえに、ケンカになれば、決定的な敵となって、生涯、相容れない関係となるしかなくなるのだ。
「分かったみたいね。私の生きていた時代の正義って何。武士道なのよ。でもね。その正義が差別と憎しみを生み続けたのよ。理不尽な社会構造とね。そして、最後は大きな戦、そして、さらには大きな戦争よ」
「そうした愚かさがガメラやギャオスにはないということよ。上手にケンカしているというわけだろう。同じ理由で、私も上手に差別していると思ってくれないものかな」
「それはダメ。許しません。女性蔑視の生命。性悪トカゲ」
 アイさんはそう言って笑った。こちらは声に出して表情も明るく笑うのだが、深夜の時間にその声は少し怖い。やっぱり幽霊はいるのだ、と、そう筆者に思わせるところの笑いなのだ。
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