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2019年12月13日01:01

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アイさんコモドと鉢合わせ、その6

 アイさんはチョコレートを口に入れ、しばらく、その香りと味を楽しんでいたかと思うと、サイフォンに残っていたわずかなコーヒーを自らのカップの注いだ。コモドは「新しいものを淹れさせるのに」と、怒っていたが、他人の家で「淹れさせる」と、彼には筆者は何に見えているのか少し心配になった。小間使いならいいが、まさか奴隷に見えているとか。何しろ自分を王だと認識しているような生命なのだから。
「共生は出来ない。生命は、ただ、共存しているだけ。はい、サイフォン」
 そう言って、アイさんは筆者にサイフォンを渡したので、反射的に筆者はそれを持ってキッチンに立ってしまった。奴隷ではないかもしれないが、奴隷根性は出来ているようなのだ。
「差別はある、と、お嬢さんが言ってしまうのかね」
「そうよ。なくなると思っていない。なくさなければならないとも思っていない。でも、闘いを止めようとも思っていない。差別は根絶するものではなく、永遠と闘い続けるものなのよ。そうね。ダイエットのようなもの。生きているかぎりダイエットは続くのよ。栄養失調になってしまえば、それで健康ってわけじゃないでしょ。油断すれば太る、行き過ぎれば栄養不足。それと同じなのよ。本当の平等なんて求めてしまえば、社会は成立しない。でも、闘うことを止めてもいけない」
「まるで地獄だな」
「知らないくせに」
「何を」
「地獄。だって、コモドの旦那は死んだ経験がないから」
「お嬢さんはあるような口ぶりだな」
「だって、私は幽霊ですから」
 幽霊であればあの世を知っているということなのだろうが、しかし、死んだそばからこの世に執着して、成仏していない幽霊でも、あの世のことが分かるのだろうか。疑問なのだ。何しろ、アイさんも、コモドも、その基本は嘘ばかりなのだ。それだけではない。ガメラが生命だと言うのも嘘っぽいし、ギャオスが星にもどれば王族だというのも嘘っぽい。ガメラとギャオスが敵対するウルトラマンたちの陰謀説も、これにも信憑性はない。
「そうだ。生命の共存というなら、ガメラは生命でないから差別されても仕方ないですね」
 筆者は洗ったばかりのサイフォンを拭き、再びコーヒーを淹れる準備をしながら二人に言った。
「本人が生命と言っているんだから、認めてあげたら、美味しいお土産も買って来てくれるんだし」
 アイさんは意外とガメラに優しい。もちろん、本心ではない。お土産目当てなのだ。
「この前、お前は頭のネジがひとつ緩んでいるんじゃないか、と、言ったら、アイツ、えって顔して、あの短い手で一瞬頭触って、その後で、慌てて、ネジなんかあるかいって、インチキ江戸弁で言いやがってな。それはものの喩えだと言ったら、さらに、慌てて、知ってるがなって、江戸弁まで怪しく弁解しておったぞ」
「ネジが落ちてると絶対に拾うしね。知ってる。人間の姿で電車に乗るとき、自動改札を通過する度に、自動改札にご苦労さまって声かけてるのよ。機械同士で通じるところがあるんじゃないかしら」
 滅茶苦茶である。ガメラが聞いたら、さぞ、怒ることだろう。そうしたところから差別ははじまるのではないのか、と、そう思っている間にコーヒーが出来た。

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