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2019年12月12日00:41

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アイさんコモドと鉢合わせ、その5

「ドラゴンというのはな」
「ドラゴンの話なのね。コモドはトカゲだけど、ドラゴンの話なのね」
「じゃあ、コモドというのはな。もともとが一人で生きているものなのよ。うーん。まあ、やっぱり、ドラゴンってことにさせてくれ、調子が悪い。お嬢さんは信じてないが、コモドはドラゴンの末裔なんだ。これは本当なんだよ」
「コーヒーのお礼があるから、じゃあ、いいわよ、ドラゴンで。ドラゴンに末裔なんていないけどね。そもそもドラゴンなんていないしね」
「それを言うなら幽霊もいないだろう」
「いるじゃない」
 コモドが腕をしっかと組んだ。これはかなり怒ったときの仕草だ。
 この二人は話の本筋がすぐにズレてしまうのだ。そして、ケンカになる。筆者はその度に工夫して話を戻さなければならない。筆者も地球上にドラゴンがいた歴史はないと思うし、オカルト雑誌などやっていたくせに幽霊も信じていないが、そんなことは話の本筋とは関係ないのだ。
 とっておきの牛タンの燻製があったので、それを出した。コモドの目の色が変わった。もっとも、そんなものも分からない。コモドには表情などないのだから。しかし、大きな身体を左右にゆるく揺するのは、コモドが嬉しいときの仕草なのだ。
「まあ、じゃあ、お嬢さんには、ちょっと我慢してもらって、ドラゴンの話を聞いてくれ」
「いいけど、孤独自慢は止めてね。言っておくけど、幽霊も、怪獣も、皆、孤独なんだから。地球上ではね」
「分かっている。孤独を嘆くわけでも、自慢するのでもない。ただ、一人で生きるというのは、これには差別が必要なんだという話をしたいのよ」
「一人しかいない社会なら差別なんかないじゃない」
「生きるのは一人でも、そこには他の生命はいくらでもあるわけ。それらは協調し、もしかしたら同種、いや、異種でさえ助け合って生きていたりするわけだ。そんな生命たちの隣で一人。これは寂しいわけ。そこで、自分は生命の王だと信じたくなる。王様は一人でいいわけだからな。それでも、やはり、寂しいのでな。そこで多くのドラゴンは火山の中や洞窟の奥、深海や氷山の中に潜んだのよ。生命の中に一人は孤独だが、完全に一人は孤独じゃない。この自分は王だ、高貴だという考えは、他の生命は自分に劣るという考えに至る。これが差別になるわけだ。つまり、他の生き物が下等だと差別しているのではないのだよ。自分は高貴だと差別しているわけだ」
「傲慢ね」
「そうだ。傲慢なのだ。その傲慢を支えに生きているというわけなのだよ。コモドもドラゴンの末裔である以上な」
 つまりコモドは差別される側の孤独ではなく、差別する側の孤独について語りたいということなのだろう。同じようなことをギャオスも言っていた。強いと恐れられ、逃げられると、理由もなく暴れたくなったのだ、と。
 これは難しい問題なのだ。
 アイさんは、しかし、ニコニコと話を聞いていた。彼女には何か答えがあるのだろうか。
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