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2019年12月11日00:51

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アイさんコモドと鉢合わせ、その4

「あのね。コモドの旦那、幽霊が七代祟るって、どういうことか知っている」
 アイさんが突然にそんな話をはじめた。七代祟る。幽霊とは恐ろしい存在である。
「実に怖いねえ。コモドは子孫を大切にする生き物だから、余計に怖い」
「あのね。どんな恨みを受けたとしてもね。その子孫にまで罪があるという考えって、差別でしょ。お爺さんが殺人者で、その五歳の孫娘を祟ってどうするって言うのよ。ましてや七代目なんて、もう、七代前に何があったかも知らないでしょ。子孫まで祟るというのはね。先祖に悪人がいれば、その血は呪われているから差別しようという魂胆なのよ」
「いや、しかし、差別の嫌いな、お嬢さんたちの、それは台詞だろう」
「そうよ。理不尽なのよ。七代祟るわけないし、そんなの理不尽なだけなのよ。幽霊というのはね。この世に理不尽なことがあることを訴えているわけよ。そもそも、七代先の子孫の心配するような人はね。七代先まで恨まれるような行為はしていないものなのよ。逆にね。そこまで恨まれるような酷いことする人はね。七代先の子孫の心配なんてしないのよ」
 それはそうだ。アイさんは江戸時代に幽霊になったらしいが、しかし、その見識は現代のそれと少しも変わらない。もしかしたら、アイさんは昼間は現代の学校にでも通っているのだろうか。何しろ、卒業出来ない代わりに受験も授業料さえ要らないわけだから。
「なるほどなあ。女という概念の犠牲になるのは、それは理不尽。理不尽なことがあると訴えるなら理不尽なスローガンがいいと、おや、そこは理に適っているというわけだな」
「さすがはコモドの旦那。でもね。そうした理不尽なことってね。旦那のような小さな差別主義が助長させているようなところがあるのよ。女は弱い、それがね、弱い女は可愛い、と、そうなるのよ。そして、強い女は可愛くない、と、そうなるわけね。女は弱い、で、終わらないのよ人の世はね」
 アイさんはそう言うと、珍しく、その顔から笑みを消し、憂いを持って天井を眺めた。彼女の眺めているものは、幾多の苦渋を受け、理不尽な社会の犠牲になった女たちの歴史なのかもしれない、と、筆者は思った。
 アイさんは、天井を眺め、涙を隠すようにして筆者に言った。
「ねえ。コーヒーには甘いお菓子が合うのよ。知っているでしょ」
 コモドは腕を組んだ。短い腕を強引に組むのは彼が怒っているときの仕草だ。
「まったく気がつかん男だよなあ。ガメラあたりのお土産があるんじゃないのか。あのロボット野郎は、お土産のセンスがいいからなあ」
 どうして、この二人は筆者の部屋に勝手にやって来て、威張っているのか分からない。筆者を何だと思っているのか。これが差別じゃないのか、と、そう思いながら、筆者は、ガメラのお土産ではないところの、とっておきのチョコレートを出した。自分のために買っておいた、とっておきだった。
「あるなら、最初から出しなさいよ」
「ケチりやがってなあ」
 仲が悪いくせに妙に気の合うこの二人の子孫を七代まで祟ってやろうかと筆者は思った。
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