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2019年04月20日16:00

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遠い記憶のエロ小説、その1

 子供たちだけで冒険に出かけた。行ってはいけないと言われていた工場地帯。道はやたらと大きいが、人は歩いていない。スピードを出したトラックだけが行き交う。住宅はほとんどなく、右も左も工場ばかり。そんな場所なのに公園がある。道路際の樹木の葉は鼠色をしているというのに、そんなところに緑地公園が強引に造られていたのだ。昼間から人もいないので子供どころか大人の女の一人歩きさえ物騒に感じられる公園。しかし、筆者たちは決死隊を組んででも、その公園に行かなければならなかった。何故なら、そこはエロ本の宝島だったからなのだ。
 自転車に乗って一時間近く走る。海の臭いがしてくる。潮の匂いではない。ドブ川のような海の臭いだった。その臭いに筆者たちはドキドキと興奮させられていた。
 エロ本はいろいろな場所に置いてある。いや、本当は捨ててあるのだろうが、子供だった筆者たちは誰かが隠してくれているものと信じていた。まるで宇宙人からのメッセージを探すように筆者たちはエロの先人たちのメッセージを探していたのだ。
 ほとんどの子供は写真の多いエロ雑誌を探していた。筆者はそうした雑誌も見たかった。しかし、筆者には、もう一つ楽しみがあった。それは他の誰も興味を抱かない小さな本だった。表紙こそ過激なイラストだったが、中は文字ばかり。挿絵もない。そんな本を筆者は必死に探していた。
 本は雑誌ほど見つからない。たまに見つけても、たいていは、ただのセックス描写の小説だった。そうしたものに筆者は興味がなかった。
 長方形の長い植え込みの中は、もちろん、立ち入り禁止だったのだろう。しかし、子供だった筆者にはお構いなしだった。三メートルはあろうかという高木の下には膝ぐらいの低木が植えられていた。そこにジェラルミンのスーツケースが捨ててあった。カギ付きのケースなのだが、カギの部分は壊れていた。壊れていたというよりも壊されていた。しかし、他は汚れているだけだったので、その中の本は雨露の被害をうけていなかった。そこに筆者の好みの本が入れてあったのだ。しかも、数冊持ち帰ると、また、数冊増えているのだ。
 忘れられない小説がある。確か「譲渡」というタイトルだったと思うが、そこは記憶が定かではない。内容は、いろいろな事情の女たちが金で売られて行くという話だった。女たちはどこかの家の地下に集められ、そこで品定めされ、どういう商品になるかを決められるのだ。セックス奴隷とされた女たちは安堵の顔をする。泣き叫ぶのは人間便器とされた女だった。
「可哀想に、お前は、もっとも残酷な男たちの玩具にされるのだよ。悲鳴さえ上げられないほどの苦痛の中で、お前は切り刻まれて死んで行くことになるんだ。ああ、なんて可哀想なんだろうね」
 そう言って老婆が女の身体を洗っているシーンがあった。
「何てことなの。お前は、これから残酷に殺されようと言うのに、何なの、どうして、洗ったばかりのここを汚しているんだい。まさか、今の私の話で興奮したわけじゃ。いやだねえ。聞いてはいたけど、本当に、そんな変態女がいたなんて」
 その女がどんな事情で売られて来たのか、その女がどこに買われどうなるのかの記憶はない。記憶しているのは、このシーンだけなのだ。
 ドブ川のような海の臭い。ジェラルミンのスーツケース。そして「譲渡」という言葉。それらは遠い記憶の底のエロなのだ。
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